録画された「個人情報」をどう管理するか
さらに、個人情報の管理という問題も生じる。その情報を保有するリスクも大きいだろう。
法は、安全管理措置として「個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない」(第23条)と定めている。セキュリティ万全のオンラインストレージにすべてのデータが保有され、専門業者が24時間管理しているのなら“安全”ともいえるかもしれないが、そこまでの対策を公立学校で打つことは可能なのだろうか。
指導要録などなら校長室や事務室の耐火書庫に保管しているが、家庭調査票などと呼ばれる本人や家族の情報は使用頻度も高く職員室のロッカー保管が多い(もちろん施錠はしている)。学校行事で撮影した写真や動画は共用パソコンに保管されていくだけという場合もあるだろう。
防犯カメラで常時教室を撮影した個人情報はどのように扱われるだろうか。撮影頻度の低い行事などの動画とは比べものにならない個人情報が蓄積されていく──(上書きされていくとしても1週間で消したら設置する意味もない)プライバシー問題とあわせて、個人情報保管の問題も考慮する必要があるだろう。
いじめや不適切指導「巧妙化」する可能性も
以上述べたような費用面、運用面のリスクを解消できたとして、普通教室へのカメラ設置で、本当にいじめや不適切指導という子どもの人権侵害がなくなると言えるだろうか。
もちろん、熊本市のワークショップでの発言通り、いじめや体罰・不適切指導の「記録が残る」という利点はあるだろう。また、カメラの存在を意識することで、派手ないじめや身体的な体罰・大声での恫喝はやめておこうと思うこともあるだろう。カメラによって救われる子どもが出てくることや、不適切な行為への抑止力があることは確かであると思う。
他方で、いじめや不適切指導がさらに巧妙化する可能性はないだろうか。例えば、無視や仲間外れ、いじりのようないじめ・不適切指導は、たとえカメラで捉えてもそれがいじめ・不適切指導であると判断できるかどうかは難しい。
カメラでは捉えられない場所、例えばネット空間や教室外にいじめや不適切指導が移動することもあり得る。廊下や、空き教室、校舎裏、部室、更衣室、トイレ――カメラを置けば「死角」が生まれ、いじめや不適切指導が「死角」に移動する。コストを費やして「死角」をしらみつぶしにつぶしていく選択をすること自体は理論上あり得るが、トイレや更衣室、ネット空間まではカメラを置くことは不可能だ。


