近年、日本の子どもの近視が急増している。眼科医の大野京子さん(東京科学大学眼科学教室教授、日本近視学会理事長)は「子どもの近視が進まないよう早めに手を打つことが何より大切だ」という――。(聞き手・構成=石川美香子)
床に寝転がりながら、本に没頭している眼鏡をかけた少年
写真=iStock.com/Miljan Živković
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今や「よく見える子ども」は少数派

いま、子どもの近視が急増しています。最新の学校保健統計(令和6年度)によると、日本の子どもの裸眼視力1.0未満の割合は幼稚園児で26.5%、小学生36.8%、中学生60.6%、高校生では71.1%に達し、このうちの8割以上が近視であるとみられています。そして、その割合は30年で約3倍に跳ね上がっています。

つまり現代は、どのお子さんも近視と無縁でいることが難しくなっていて、もはや「よく見える子ども」のほうが少数派といってもいいでしょう。

近視が急増したのは、遺伝子が急に変わったせいではありません。子どもたちをとりまく環境要因の激変が、主な要因と考えられています。近年のスマートフォンとタブレットの普及で、近くを見る“近業きんぎょう”が日常的に多い時代を迎えたことが大きく影響しているのです。特にスマホは、本を読むときよりも画面との距離が近くなりやすいもの。本との距離が平均30cmという読書に対し、スマホは20cm前後で画面を凝視することが多いとされています。

近業によって近視になるメカニズム

そもそも、人間の眼球は本来、成長とともに自動的にピントを合わせる仕組みを備えています。赤ちゃんの角膜から網膜までの奥行き――つまり「眼軸」は約17mmですが、乳幼児期に急伸し、小学生で22~23mm、成人で23.5~24mm前後に落ち着くのが標準。赤ちゃんの目はやや遠視ですが、成長とともに眼軸が伸び、自然にピントが合うようになっています。近視は、その眼軸が必要以上に伸びてしまった状態です。

私たちの眼は水晶体の周囲の「毛様体筋」を緊張させたり、ゆるめたりしてピントを調節しますから、日常的に近くにピントを合わせた状態が続くと、その距離を見やすいように眼も順応して、形を変化させます。つまり、眼軸長(目の前後の長さ)が伸び、眼球全体の屈折力(目の度数)が手元寄りに変化することで、近視が進んでしまうのです。

2019年には、学校のITC環境を整備する「GIGAスクール構想」が始まりました。タブレット学習が全国へ普及し、子どもたちの近業時間はさらに延びたと推察されます。加えて、屋内で過ごす時間が増えたことによる「外遊び」の減少も見逃せません。「近業時間の増加」と「外遊び時間の減少」という2つの歯車がこの30年間でかみ合ってしまった結果、現在の近視爆発につながったと、私は考えています。