製造業と非製造業が両輪として機能している
――現在の関西エリアの社会、経済の動きにおける注目点にはどのようなものがありますか。
【荒木】まず、近年大きく変化しているのが人口移動の状況です。10年前、関西圏は年間1万5000人を超える「転出超過」が発生していました。それが2024年には438人にまで減少し、25年には「転入超過」となることが確実視されています。東日本大震災後、一時的に関西圏が転入超過になったことはありましたが、それを除けば1973年以来、52年ぶりの事態。今年は歴史的な年と言えます。
併せて、インバウンドの動向も見逃せません。関西での訪日観光客の消費が拡大しており、当社推計では14年の約6000億円から24年には約2.5兆円となりました。全国的に見て観光面での優位性は高く、訪日観光客が100人いれば、およそ40人は関西を訪れているといったデータもあります。
――産業面ではどのような動きが見られますか。
【荒木】関西は歴史的にものづくり企業が集積し、医療関連の産業なども強みとしています。加えて近年は、太陽電池や水素、電気自動車用の電池など環境・脱炭素に関わる領域でも日本をリードする企業が出てきている。今後も、製造業が関西経済を支える基盤の一つであり続けることは間違いないでしょう。
一方でサービス業や小売業など非製造業が経済のけん引役として着実な成長を見せています。リーマンショック以降、雇用創出の主役は製造業から非製造業に変化しており、インバウンドの好影響などで引き続き伸長することが予測されます。全体で見れば、製造業と非製造業が両輪となって関西経済を前進させているのが今の状況です。
――かつてと比べて、実態は大きく変化している。
【荒木】そのとおりです。関西はこれまで、「地盤沈下」というキーワードで語られることが多くありました。しかし、「それは過去のこと」というのが私を含め現場にいる多くの人たちの実感です。設備投資も増加傾向にあり、地価も上昇傾向にある。現在の成長は一時的なものではなく、持続する可能性が極めて高いと考えています。

自動化、省人化の推進がさらなる成長の鍵に
――関西エリアでは今後も大規模なプロジェクトや開発が予定されています。
【荒木】各種プロジェクトが関西の発展を後押しすると期待されています。中でも神戸空港の国際化は大きなポイントになるでしょう。すでに国際チャーター便の運行が始まっており、30年頃には国際定期便が就航して本格的に国際化する予定です。
これまで関西における外国人の主要な観光ルートは「大阪から京都」で、兵庫へ向かう人は必ずしも多くありませんでした。しかし兵庫は充実した商業施設を備え、世界遺産も温泉もある魅力的な観光エリア。神戸空港の国際化によって新たな人の流れができれば、関西圏の観光マーケットのさらなる活性化につながるはずです。
りそな総合研究所
主席研究員
兵庫県出身。大阪大学経済学部卒業。信託銀行、シンクタンクを経て、2002年に大和銀総合研究所(現りそな総合研究所)入社。12年より現職。日本および関西経済のマクロ分析を専門分野とする。
――関西エリアの課題にはどのようなものがありますか。
【荒木】究極的な課題は人手不足です。先にお話ししたとおり、関西圏の人口移動の状況は近年改善していますが、自然減による人口減少は今後も続き、生産年齢人口の減少スピードは関東や東海よりも速いと予測されています。製造業、非製造業を問わず、需要があってもそれに応えられなければ当然成長は望めません。
国による外国人労働者の受け入れ拡大政策は一つの方策でしょう。しかしながら、関西の生産年齢人口は20年から45年の25年間に311万人減少すると予測され、外国人雇用だけでこの数字をカバーするのは難しい。鍵を握るのは自動化、省人化の強力な推進に他ならないと私は考えています。
――テクノロジーを活用しながら、生産性を高めていく。
【荒木】そうです。現在AIやIoT、ロボット技術などが進展していますが、それらを個別で捉えるのではなく、「人手不足」という横串を刺して、新たなソリューションをつくり出していく。課題先進地域である関西の企業が知恵や技術を持ち寄って、そうした取り組みを実現できれば、それは新たなビジネスにもなり得ます。人手不足は日本ばかりでなく、中国や韓国、シンガポールなど海外でも今後深刻化していくため、市場は大きいと言えます。
持ち前のオープンさがさらなる成長の力にも
――ビジネスの場としての関西エリアにはどんな特徴があると感じますか。
【荒木】オープンマインドというのは一つの特徴だと思います。人と人のつながりを大事にしますし、新しい物事も受け入れる気質がある。今ビジネスにおいてはオープンイノベーションの重要性が高まっており、関西の人たちのオープンさがプラスに働く可能性は十分にあります。
近年、大阪などでベンチャーキャピタルの立ち上げが続いており、スタートアップ企業への注目度も高まっています。そうした企業と既存企業の連携が関西経済の成長の新たな力になるのではないかと期待しています。
――最後に、関西エリアに関心を持つ人にメッセージをお願いします。
【荒木】繰り返しになりますが、今関西圏は元々持っていた強みに加えて、インバウンドという新たな武器を手に入れ、設備投資も順調に推移しています。それらが好循環を生み出し、明確に新たな段階に入ったと言っていい。かつてのイメージにとらわれず、新鮮な目線でその現状や可能性を見てほしいと思います。実際足を運んでもらえれば、さまざまな場所で活気やにぎわいを体感できるに違いありません。
