藤井さんは当初、納得していなかったようだ。「私の思いが部下に伝わらないのは私の人間力やフィロソフィーの問題であって、話し方の問題などではないと思ったのです。でも、自己評価を実践していくうちに、実は、逆であることに気づきました。私から一方的に話すのではなく、部下が理解しやすいように話すことを意識していると、自然に部下の話を傾聴するようになるのです。そうやって、部下とダイアローグを重ねることによって、結果的に私のリーダーシップのあり方も変わっていくことに気づいたのです」。

こうして、部下との「関係の質」が改善されていくと、結果的にその組織は高い成果を挙げるようになる。反対に、リーダーが成果を挙げることだけに血道を上げていると、部下との関係の質が損なわれて、むしろ成果が挙がらなくなる場合が多い。

藤井さんは話し方の改善という一見テクニカルな問題が、実は「関係の質」の改善という組織にとって極めて重要な課題に繋がっていることに自力で気づかれたのである。「みんなが成功してハッピーになることが私の成功であるということを心より思っています」。

さて、もう1人のクライアントは、アミューズメント施設の企画・運営会社のナムコで、最年少役員(47歳)になった有賀英雄さんである。

有賀さんは10年前にすでにコーチングに出合い、主導権を相手に持たせながら会話をする手法の存在を知って衝撃を受け、その後も独学でコーチングを勉強してきた“コーチング通”。今回は役員昇進によって仕事量が急増したこともあり、1度、第三者によるエグゼクティブ・コーチングを受けたい、と会社に頼んで了承されたというから、藤井さん同様“覚悟の深さ”は十分である。