親しみやすい漫画を
企業広告に活用

一方で、漫画は企業広告のツールとしても活用されてきた。そこには、大きく分けてふたつの手法があったと甲斐氏は指摘する。

「ひとつには、漫画が表現手法として文字よりも親しみやすく、わかりやすいことから、より平易に伝えるための道具として広告に用いられてきたことがあります。また、その対極として、漫画のキャラクターをCFタレントのように活用することがあった。漫画を広告に用いるやり方としては、この30年間、このふたつの手法がとられてきました」

そして最近になって登場してきたのが、さらに一歩踏み込んだやり方だ。

「漫画の世界観を生かした広告表現です。たとえば島耕作が野菜ジュースを飲む。これは、できるビジネスマンとして知られる島耕作の世界観を用いた広告表現で、5年ほど前に登場しました。また、画面の中に実際の商品を登場させるという広告手法が映画などにはありますが、それを漫画で行う例が出てきました。島耕作をふたたび例にとれば、彼が会食する一流料亭が、実在のものであるという広告の手法ですね」

漫画がもつフィクションの世界と現実の世界が混交することに、読者はもはや違和感を覚えることはないということだろう。ビジネス誌の世界でも、弊社発行のプレジデントムックの『マンガPRESIDENT』が好評を得ているなど、同じような現象が起こっている。

一線級の漫画家を起用
難解なテーマを漫画に仕立てる

そしてこの6月からは、さらに新しい試みがWEB上で展開されている。抗体医薬で製薬業界をリードする協和発酵キリン株式会社は、自社のホームページ上で、免疫や抗体医薬といった高度に科学的な内容をテーマとする漫画の連載を開始したのだ。

作者は、『Ns’あおい』などのヒット作をもつ一線級の漫画家、こしのりょう氏。会社の歴史や社長の自伝を漫画化しただけのこれまでの作品と異なり、この試みは斬新だと甲斐氏も期待を寄せる。

「作者のこしのさんは、これまでにも医療系を描かれているので、読者には親しみやすいと思います。Web上で連載するというやり方も、新しいチャレンジ。通常の漫画雑誌と同じように、読者の反応を見ながら対応していけるとさらに楽しみですね。次回の更新が待ち遠しいと思う読者が増えてくれば、必ず成功すると思います」

文字の羅列でも単なるイラストレーションでもない漫画という表現方法は、Webという新たなメディアを得て、その可能性をさらに広げている。

(大竹聡=文)