「創業者目線」が生きている日本企業の例も紹介しよう。

世界のファスナー市場において40%程度のシェアを誇るYKKは、日本を代表するグローバル企業のひとつである。同社は顧客ごと、商品ごとに異なる何万種類のスペックを持つ高品質の商品を納期通りに仕上げるため、世界中に分散するすべての製造ラインにおいて、内製された機械を使っている。YKKの工場に行くと、何千、何万という種類のファスナーが注文されたスペックに従って次々と生産されている。ファスナーという商品自体はローテクだが、それを製造する機械は同社の研究開発の成果が詰め込まれたハイテクなのである。

徹底的に顧客のニーズにこたえるために、大幅な権限移譲も行っている。顧客企業が人件費の安い国や地域を求めて製造拠点を移動すると、それに合わせて新たな拠点を開発し、「成功するまで帰ってくるな」という片道切符の精神で人を送り込む。赴任者は責任が大きい半面、権限も大きい。創業者の吉田忠雄氏による「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という「善の巡環」という考えが現経営陣においても生きており、経営幹部自らが、世界中の現場を巡り歩き、この言葉を伝えている。

YKKの海外拠点は、世界71カ国・地域の109社にのぼる。これらの拠点に実際に足を運ぶ時間的な負荷は相当に高いはずだが、経営幹部の思いを直接現場に伝えることで、オペレーションがどれだけ拡大しても、経営と現場、現場と顧客の距離を最短に保つことが可能なのである。

ここに挙げたアップルとYKKは、業種も異なれば、経営スタイルもまるで違うが、2社とも自社の強みを知りつくし、その強みを繰り返し、継続的に成長と成功に結びつけることを愚直に続ける「リピータブルなビジネスモデル」を確立している。

「同じことを繰り返しやる」というのはあまり賢明なことのようには思われないかもしれないが、実はその能力こそが勝ち続けるための条件である。イチロー選手も1本1本のヒットを繰り返すことで、前人未到の記録に到達したのである。ただ、繰り返しの能力を成果に結びつけるためには、自分たちのコアは何なのかということがはっきりわかっていなければならない。そうでないものを磨き続けることには意味がない。