この取り組みは、必須アミノ酸の1種「リジン」の研究から始まった。とうもろこしや小麦などに含まれるリジンの量は少なく、穀物に偏った食生活では体の成長に必要なたんぱく質の不足につながってしまう。

政治的に安定しているうえ、国際NGOなど多くの社会セクターが西アフリカの拠点として活動するガーナに着目し、味の素は06年からガーナ大学と共同でリジンの研究を進めてきた。

09年に創業100周年を迎え、新たに「“食”と“健康”そして、“いのち”のために働く」をグループビジョンに掲げた同社では、このリジンを活用してガーナの乳幼児の栄養改善に本格的に取り組むことを決めた。

ガーナの子どもの成長データを見ると、母乳で育つ時期は比較的順調だが、離乳食の時期になると低身長の割合が増える。離乳食でアミノ酸をバランスよく摂取できれば、子どもの栄養状態を改善することができるはず。そこで、離乳食に添加することでリジンなどの栄養素を補える商品を開発したという。

同じ言葉でも「意味」が違った

このプロジェクトは、ガーナ大学のほか、ガーナ政府、UNICEF(国連児童基金)、米国や英国に本拠地を置く国際NGOやこれらNGOの日本法人、ガーナ法人など、国だけでなく目的や文化の違う組織が共同で進めている。

「最初の壁は、『どうやって信頼してもらうか』でした」と中尾氏は振り返る。ガーナやその周辺には味の素の拠点がなく、知名度も低い。現地のNGOにいきなりアプローチしてもうまくいくはずがない。そこでまずは国際NGOの日本窓口にコンタクトし、現地のオフィスに繋いでもらった。

「幸い味の素では、1999年からCSR部が窓口となって国内外のNGOを支援する活動を行っており、NGOとの繋がりがありました。このため、比較的スムーズに信頼関係をつくることができました」と中尾氏は言う。