たとえば商品開発では、UNICEFスタッフとのやり取りが活きた。当初、味の素ではリジンを強化したボトル入り飲料として商品化することを検討していたが、それでは嗜好飲料として店頭に並ぶことになり、価格も高くなる。流通の費用もかかるため、ターゲットとする地方の貧困層には届かない。

こういった指摘やアイデアをUNICEFのスタッフから受け、商品の形を変えたという。粉末サプリメント製品とし、現地で離乳食に使われる主食の1つ、とうもろこしを発酵させたお粥状の「ココ」に混ぜることで必要な栄養素を補給することを狙った。

「味の素では、社外のさまざまなセクターと協力しながら新しいものを生み出す『オープンイノベーション』に着目しています。このプロジェクトがオープンイノベーションの1つの事例になれば」と中尾氏は語る。

東南アジアでの失敗を糧に

これまでの海外事業の経験も活きている。

「(伊藤雅俊)社長はよく『現地の言葉でビジネスをやりなさい』と言っています。英語ではなく、現地のマーケットで使われている言葉で話して初めて、現地の課題が見えます。そこでさまざまなリスクが把握でき、チャンスも生まれます」(中尾氏)ガーナの公用語は英語だが、部族ごとに言葉も違う。

「簡単に、『英語ではなく地元の人たちの言葉で』というわけにはいきませんね」と中尾氏は笑うが、現地密着型の発想は同じ。社内スタッフに現地の文化を理解してもらうためには、「現地に行ってもらうのが一番」だという。中尾氏自身も最低3カ月に1度は現地に赴いているし、ほかのプロジェクトメンバーも出張に同行することが多い。特にこれから生産や品質管理、販売など実務を詰める作業が進むにつれ、「現地を見る」ことの重要性はますます高まるだろう。