今年5月、国会事故調の委員会に参考人招致された勝俣恒久東京電力前会長を見て驚いた人は多かろう。謝罪が一応はあったものの、責任について問われると、「執行の責任は社長。原発の事象は発電所長」と他人事のような発言に終始した。

不祥事を起こした会社の記者会見で経営トップが深々と頭を下げるシーンをよく見かけるが、どうしてそれと対照的な振る舞いをしたのか。企業のコンプライアンスに詳しく、今回の原発事故で全農など生産・流通業者側の代理人を務める久保利英明弁護士は、勝俣前会長の胸のうちを次のように推察する。

「企業のトップが不祥事で謝罪するのは何より本人が責任を感じているからですが、一方で、真摯な対応をしないと消費者に見放されて経営危機に陥る恐れがあるという面もあります。勝俣氏をはじめ東電経営陣は、責任を感じていないどころか、『どうせ国は東電をつぶせない』となめきっている。謝罪しても経済的メリットがないので謝らず、態度も不遜になるのです」

実際、東電や勝俣前会長に法的な責任はあるのか。「原子力損害の賠償に関する法律」第三条によると、原子力事業者は原子力損害に対して無過失責任を負うことになっている。しかし、但し書きに「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」と免責規定がある。

今回の震災が「異常に巨大な天災地変」にあたれば東電に賠償の責任はないことになるが、久保利弁護士は、「地震か津波かはともかく、全電源喪失は予見可能だったから、異常に巨大な天災地変とはいえない」という見解だ。

勝俣前会長を含めた現・旧役員27人は、善管注意義務等に違反して損害を生じさせたとして、計約5兆5000億円の賠償を求める株主代表訴訟を起こされている。善管注意義務とは、善良な管理者が負う注意義務のこと。業務を委任された人は、通常人が期待する程度の注意を払い、考えられるリスクに対して対策する義務を負う(民法644条)。

「原発の運営を任された東電取締役に課せられた注意義務は、通常の企業のそれよりずっと重い。犬ではなくライオンを飼って散歩させていたのに、『まさか噛むとは思わなかった』では話が通らない。5兆円とはいかずとも、おそらく賠償が認められることになるでしょう」

法廷で経営陣は自分たちに法的責任はないという立場で争うことになる。責任を認めたと受け止められるリスクを考えると、経営陣が謝罪できないのもわからないでもない。これまで不祥事を起こした企業の多くは、法的責任の有無にかかわらず、平身低頭で謝罪会見を行っているが、それは、今後のビジネスを考慮し、消費者や取引先を納得させるために行っている面がある。地域独占の電力会社には、その必要もない。

ただ、「経営陣の謝罪には、国民が溜飲を下げることよりも大事な目的がある」と久保利弁護士。

「それは、会社として反省して、真相解明や再発防止、被害者の方への補償に積極的に取り組むことです。トップの謝罪は、その覚悟を社内に示すために必要。上が開き直っていたら、下も本気で取り組みません」

今後、東電は原発という「ライオン」を飼い馴らす能力と責任感のある会社になれるのか。その答えは、勝俣前会長の「姿勢」に表れている。