毒親の介護に苦しんでいる子供たち

幸いにも、いや皮肉にもというべきか、私には書くという武器があった。母に実装された武器が――。今こそこの武器を取って立ち上がるのだ。

私は出版社に「親を捨てたい子」の現実を描きたいと、企画を持ち込んだ。企画は無事に通り、『家族遺棄社会』として出版された。『家族遺棄社会』では、親を捨てたい子のさまざまなリアルな声を拾い集めた。そして本書の中で、遠藤さんの活動を大々的に取り上げた。それは私が半ば意図的に仕掛けたものである。

そんな私の仕掛けに、雑誌「週刊SPA!」が食いついてきた。私はそこでも遠藤さんの活動を売り込んだ。そして、その巻末では、『毒親と絶縁する』の著者である評論家の古谷経衡さんと対談した。

私は内心ビクビクしていた。ここまでいろいろな仕掛けをしてみたものの、世間から冷たい目で見られるのではないかと感じていたからだ。しかし、蓋を開けてみたら、反応は真逆だった。同じ思いを抱える人々から、私や遠藤さんにたくさんの応援のメッセージが届いたのだ。それはとても心強かった。

毒親の介護に苦しんでいる子供たちが、これだけ世の中にいること――。それがはじめて可視化された気がした。そして、そんな「親を捨てたい」「距離を置きたい」という切実な思いも受け取った――。私はその反響の大きさにただただ驚き、今後自分が何をすべきか、考えさせられた。

親を捨てたい子どもたちから依頼殺到

その後、私はウェブメディアでも「親を捨てたい子」の記事を書いた。もっと多くの人たちに私のメッセージが届くことで、少しでも親から自由になる人たちがいる。そう感じたからだ。それは私なりの小さな反乱であり、世間に投げ込む手製の爆弾であった。そして、それは大勢ではなかったが、確かに一部の人に届いたようだ。

遠藤さんの元には、次から次に親を捨てたい子どもたちからの依頼が殺到したからだ。遠藤さんの活動は世間ではまだ珍しく、潜在的な需要があったのだと思う。

菅野久美子『母を捨てる』(プレジデント社)
菅野久美子『母を捨てる』(プレジデント社)

私の著作や遠藤さんの活動は、大手メディアでも取り上げられるようになった。遠藤さんと私は二人三脚だった。私はたびたびテレビ出演を依頼されたが、出演を頑なに断った。ディレクターからは怪訝けげんそうな返事がきたが、取材者ではなく親を捨てたい子をサポートする遠藤さんがメディアの前面に立つことにこそ意味がある、そう感じたからだ。

遠藤さんがメディアをジャックすることで、多くの親を捨てたい子どもたちの代弁者となりえるはず。私の強い願いどおり、遠藤さんの活動は一つのムーブメントになりつつあった。たった一人からはじまった遠藤さんの活動は、当初の思惑以上にどんどん大きくなっていったのだ。

【関連記事】
【第1回】「お母さん、ごめんなさい! ゆるして!」毛布をかぶせられ呼吸を奪われる虐待を受けても母の愛が欲しかった
老親に下剤飲ませて介護施設へ送る…世話をする家族が「外でウンコして帰ってきて」と願う自宅介護のしんどさ
祖母の年金だけで4人の極貧生活、炊飯器を投げ裸でうろつく母親…水とお菓子で空腹に耐えた少女の地獄
あなたが死ねば「遺体ホテル」に泊まってから焼かれ、遺骨はトイレに捨てられる…孤独多死社会の現実
「精神科医が見ればすぐにわかる」"毒親"ぶりが表れる診察室での"ある様子"【2021下半期BEST5】