巨額賠償金の危険性孕む「ISD条項」
そのTPPをめぐり、この半年間に注目すべき2つの動きがあった。
1つは、6月20日付の米誌インサイドUSトレードが報じた「新規交渉参加国への条件」。メキシコとカナダに対して、「9カ国合意の事項は変更しない」「将来、現在の9カ国交渉で合意する内容への拒否権発動は認めない」「交渉中の事柄に対する添削は不可」といった条件が突きつけられたというのだ。
もう1つは、07年の米韓FTA(自由貿易協定)締結後、農業など国内産業をズタズタにされた韓国で11月21日に起きた。米ダラスが本拠の投資ファンド、ローンスターが投資紛争解決国際センター(ICSID)に韓国政府を提訴したのである。
1997年にIMFの管理下に入った韓国では、多くの企業が外資傘下に入り、主要銀行株も米系ファンド等の間で売買された。ローンスターは03年に韓国外換銀行株を安値で買収、その後香港資本の金融機関に転売を図るが、韓国政府が待ったをかけた。そこで同社は「売却の時機を逸した」として、ISD条項(交易上の何らかの規制によって不利益が生じたと判断すれば、一営利企業でも外国政府を提訴できる)を盾に訴えたのだ。
アジアにおける経済連携構想の枠組みは現在、TPP、日中韓FTA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)協定の3つがあるが、都合次第で拡大解釈されるこうした用語の乱発はただの言葉遊びだ。米韓FTA同様にISD条項を含むTPPも同じ危険性を孕んでいる。
国際投資紛争の調停と仲裁を行う世界銀行傘下の機関「ICSID」は、提訴された国の国民ではなく、投資家の被害を優先する。審議内容は非公開。国際協定は加盟国の国内法に左右されない法的拘束力を持つため、提訴された国は自国の法解釈が通用しない。
しかも、母体の世銀総裁は常に米国人だ。現総裁は歴代初のアジア系かつ韓国系だが、最大出資者=米国の国益を守る米国人であることに変わりはない。とても公平な裁決など期待できない。金融関係者は米国寄りの裁定が下されると予測しており、「韓国政府が支払う損害賠償金は2000億円を超えるのでは」とも囁かれている。
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