大学に入ってからも続いた津和野との縁

大学では工学部の都市工学科で学ぶ一方、進学校出身ではないメンバーによるサークル「UTFR」(東京大学フロンティアランナーズ)でも活動した。子どもたちに東大生を身近に感じてもらい、東大をめざす人たちを支援する活動を行う団体だ。

「都市部と地方で教育格差がある原因のひとつは、大学生との接点が少ないからだと思うんです。僕は津和野高校に来ていたインターン生のおかげで、大学生に触れる機会がありました。それでも受験の情報や、大学生活については知らないことが多かった。僕自身、もっと大学生に会う機会があったらよかったなと思うし、地方の子どもに今の学びの延長に大学の学びがあるっていうことを実感してもらいたい。それが活動のモチベーションにはなっています」

石垣島をはじめ、各地域の教育委員会と連携し、小中学校を訪ねて、講演やワークショップを行ってきた。

津和野とのつながりも続いている。2020年から22年にかけては1年半ほど、津和野に“里帰り”して、高校魅力化コーディネーターのインターンを務めた。

「部活のことだったり、進路のことだったり、学校の先生とは違った形で、身近な立場で高校生の相談に乗るようにしてました。

当時はちょうどコロナ禍だったので、大学の授業もほとんどオンラインになっていたので、基本的にはずっと津和野にいました。東京と島根を行き来することで、自分を相対化して言語化できたというか、片方で『つらいな、生きにくいな』と感じることがあっても、もう片方の視点から見ると、『それほどでもないか』と思えたりするんですよね。僕が津和野に通い続けているのは、自分を客観視する機会を持てるからなのかもしれません」

コロナ禍という逆境に襲われても、しなやかな発想力と行動力でチャンスに変える。彼自身にもとから備わっていた資質ではあるが、地域みらい留学の経験がそれをさらに伸ばしたのだろう。

地方を活性化する留学生の存在

インターンが終わってからも、元太くんは大学の友人を誘っていっしょに津和野へ通っている。その活動は社会人になっても続けるつもりだという。

「親の転勤で北海道から横浜に来たときも、高校で島根に行ったときも、“越境”することでいろんな人に出会えて、それまでとはまったく違った視点でものを見ることができるようになりました。環境を変えてみること。別の世界に入ってチャレンジしてみること。社会に出ても、その気持ちを持ち続けたいと思っています」

生徒数が減っている地域の高校の定員を満たす。それが地域みらい留学のメリットのひとつだ。それに加えて、彼のように都会に戻っても、地域とのつながりを大切にし、定期的に戻ってくる若者がいる。なかにはその土地が気に入り、そのまま就職、定住する留学生もいる。

それによって過疎化の問題が一気に解決するわけではない。だが、留学生による“Pay it forward”、自分が受けた恩を次の人に返す好循環が始まり、未来につながる何かが育まれようとしている。

次回は、「地域みらい留学」の枠組みがどのように出来上がったのか、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事・岩本悠氏のインタビューをお届けする。

(第3回に続く)

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