生徒の「やりたい」を支えるコーディネーターの存在

島根のなかでも津和野を選んだ理由はなんだったのだろう?

「北海道は開拓後の歴史が浅いこともあって、津和野のように歴史のある町になんとなく憧れがあったんです。事前に見学にも行って、学校や町を案内していただきました。いろんな場所を見たり、現地の人の話を聞いているうちに、観光地ではあるんですけど、歴史・文化が住んでいる人の生活と結びついているんだなということがわかってきました。

『高校魅力化コーディネーター』がいたり、『地域おこし協力隊』として20代の移住者がいたりするのも魅力的だなと感じました。普通の学校だと、大人といえば先生だけですけど、津和野高校だったら、地域にいるいろんなタイプの大人と接する機会がある。それも決め手になりましたね」

高校魅力化コーディネーターの存在も地域みらい留学の特徴のひとつだ。津和野高校は生徒数減少による統廃合の危機をきっかけに、「高校魅力化プロジェクト」を開始。2013年から「高校魅力化コーディネーター」を採用している。

必ずしもすべての高校・地域に配置されているわけではないが、コーディネーターがいる場合は、生徒からのさまざまな相談に乗り、やりたい活動に応じて、高校と地域の大人たちとの橋渡し役を務めている。

「学校の先生とも、同級生とも違う関係性で相談に乗ってくれたり、情報を教えてくれたりするので、すごく助けられました。たとえば、学習環境ひとつとっても、首都圏と島根ではかなり違います。当時のコーディネーターさんはもともと東京の出身で、大学で専門的なことを学んだ方だったので、そういったバックグラウンドも含めてアドバイスをしてくれました」

竹林を舞台にした地域活動

みんなの高校情報」によると津和野高校の偏差値は45、生徒数は約200人で、地方にある典型的な公立高校だ。ただし、「T-PLAN」という名の「総合的な探究の時間」を設けているところに特徴ある。たとえば、1年生向けには「ブリコラージュゼミ」というプログラムが行われている。ブリコラージュとはフランス語で、その場にあるものを活かして手仕事でものを作ること。地域の大人たちが講師となり、生徒たちはさまざまな体験学習をする。

他にも農業・林業体験、議会見学、ブレイクダンス、着付け、空き家の改修など、項目は多種多様。また、高校生と地域の人々が対話する「トークフォークダンス」も継続的に行われている。生徒側から提案して「マイプロジェクト」を企画することもできる。

自由で自発的な学びが推奨される環境のなかで、元太くんは生き生きと活動に取り組み始める。なかでも熱中したのが竹林の保全活動だった。なぜ竹だったのか?

津和野高校時代は竹林の保全活動に取り組んだ
写真=本人提供
津和野高校時代は竹林の保全活動に取り組んだ

「竹は比較的暖かいところで育つ植物なので。北海道にはほとんど生えてないんです。だから、中学で本州に来たとき、竹が生えているということに新鮮な驚きがありました。

さらに津和野に来てみたら、家のすぐ裏に竹林があって、たけのこを採ったり、簡単な竹垣や竹細工を作ったり、みなさん日常生活に竹をうまく使っているんですよね。それがおもしろいなと思って、コーディネーターさんに話をしたら、竹林を持っている方を紹介してくれたんです。

その方から竹に関していろんなことを教えてもらいました。竹は繁殖力がすごいので、放置すると景観や生態系に悪影響を及ぼすことがある。だから、生やしすぎないようにすることが大事なんですよね。他にも、竹で飯盒炊さんをする方法や、竹を使った器の作り方なども教えてもらいました。その経験がすごく楽しかったから、次は友達といっしょにやってみたりしているうちに、プロジェクトになっていったんです」

ちょうど当時、津和野高校では「地域系部活動」が始まり、元太くんたちは「グローカル・ラボ」という部を作って、竹林での活動を本格化させていった。

「地域の方に無償で竹林を貸していただいて、それを自分たちで管理することから始めました。春にはたけのこを採ったり、成長した竹は切っていろんなことに活用したり。小学生といっしょに竹飯盒をしたり、竹馬を作るイベントを開いたりもしました。自分たちで竹の使い方をいろいろ考えるのもおもしろかったですね。

たとえば、たけのこご飯を作る会では、体を動かすのが好きな子はたけのこ採りをして、料理が好きな子はご飯を作り、もの作りが好きな子は竹でお椀を作ります。メンバーそれぞれが好きなこと、得意なことを担当して、力を合わせる。竹を通して、みんなでひとつのプロジェクトに取り組む場を作れたのがおもしろかったし、僕にとってはすごく居心地がよかったんです」

元太くんが卒業したあとも、活動は引き継がれ、津和野には高校生が自由に使える竹林がいまもある。

「重要なのは高校生が何かやってみたいと思ったときに、その手段があることだと思うんです。僕の場合はそれがたまたま竹だったということ。活動の枠を決めてしまうより、自由な発想で遊べる環境があることが大事なんじゃないかなと思います」