自分の子どもが発達障害かもしれないと思ったときは、どうすればいいのか。小児科医で慶應義塾大学名誉教授の高橋孝雄さんは「病院にいくことのメリットは親としての不安を和らげること。あなたが心配しているだけかも知れません」という。編集者でライターの黒坂真由子さんが医師や研究者などへのインタビューをまとめた『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP)から一部を抜粋して紹介しよう――。(第1回)
居間で疲れた母親と泣いている赤ちゃん
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「早期診断、早期治療」にはリスクがある

【黒坂真由子】子どもの発達障害の診断は「お子さんやご家族が日常生活で本当に困っているか」がポイントになるようですが、「子どもが本当に困っているか」の判断は難しい気がします。「子ども本人が自覚する困難」は、ある程度大きくなってからでないと生まれないと思うんです。そうなると、「もしかしてうちの子は発達障害?」と思った親は、「本当にそうであるなら、できるだけ早く診断をつけたい」と考えてしまいそうです。

【高橋孝雄(小児科医・慶應義塾大学名誉教授、新百合ヶ丘総合病院・発達神経学センター長)】黒坂さんは、なるべく早く診断をつけたほうがいいとお考えなんですね? 手遅れにならないうちに、と。

【黒坂】はい。できるだけ早くわかったほうが、できることが多いと思います。

【高橋】「早期診断、早期治療」がいいというのは、大抵の病気に当てはまる原則です。ただ、子どもの発達障害の場合は少し違って、「早期診断、早期心配」にならないように十分な配慮が必要です。

【黒坂】早期心配……。早いうちから心配しちゃダメですか?

【高橋】例えば、2歳になる子を「うちの息子は自閉症(ASD)です!」「手遅れにならないように、なんとかしてください!」といって、病院にやってくるお母さんがいるんです。ネット上などの情報を基にご自身で診断して、必要以上に慌てておられる場合には、その親心、むやみな心配が、そのご家族を不幸にしてしまう可能性があります。