基準は「小学校生活に支障をきたさないか」

【黒坂】では、ADHDの診断をつけて治療に入るという判断を下すのは、どういうタイミングなのでしょうか?

【高橋】ADHDについてひとつの目安は「このまま小学校に入学して学校生活を楽しめるかどうか」です。

教室で手を挙げる子供たち
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

【黒坂】小学校での生活の見通しが立つかどうかが、基準になるんですね。

【高橋】はい。4歳あたりで、このままでは小学校での生活が難しいと判断すればADHDの診断をつけて、お子さんが日常生活のなかで上手に困難さを克服していけるように介入を行うこともあります。その後の経過によっては薬を飲んでいただくこともあります。

【黒坂】だいたい何歳ぐらいから、薬を飲むことができるんですか?

【高橋】6歳すぎ、つまりもうじき小学校のタイミングで薬物治療を追加することもできます。

【黒坂】結構早いうちから飲めるんですね。

【高橋】そうですね。でも、簡単には処方しませんし、そもそもできないんです。ADHDに処方される薬は法律で厳しく管理されていて、医師にも薬剤師にも特別なライセンスが必要なんです。病院も薬局も、それに患者さん自身も登録する必要があります。決して簡単に処方できるようなものではないんです。

【黒坂】普通に買うことはできないし、簡単に処方されるものではないと。そんなに規制が厳しい薬だと知るとなおさら、親としては迷いますよね。

【高橋】医師だって迷います。

薬を飲んで別人のようになるケースも

【高橋】ADHDならどの子にも処方するというわけではなく、このまま放っておいたら、子ども自身が自分に自信を持てなくなる。あるいは、いじめの対象になる。学級崩壊の原因になったり、先生に邪魔者扱いされたりしてしまう。そう判断したときに初めて薬物治療を考えます。ですから、処方する前によくよく相談をするんです。

また、薬がなぜ効くのかを説明し、小冊子もお渡しし、よく考えていただく期間(熟慮期間)も用意して、それでも投薬のメリットがあると医師も親も納得したときにだけ薬が処方されます。

【黒坂】薬を飲むと、ADHDの子はどんなふうになるんですか?

【高橋】そうですね。極端な例では、別人のようになります。これまで字が汚くて判読不能、だからテストはほとんど0点。そんなお子さんが、きちっと書けて満点をとったとか、夏休みの自由研究をちゃんと仕上げて賞をもらったとか、そんな話をうかがうと、薬も使いようでは子どもの人生を変えるのかな、って感じるときがあります。

【黒坂】え、そんなに変わるんですか?

【高橋】裏を返せば、そのような子では、脳内の神経伝達物質がそれだけアンバランスな状態にあったんだ、ということです。薬によってそれが整えられたんですね。