トヨタの全固体電池は世界を獲れるのか

具体的にはパナソニック、AESC(オートモーティブ・エナジー・サプライ)、GSユアサの3社で、世界の電池市場の64%のシェアを持っていたのです。ところが直近で見ると中国のCATLが39%のシェア、韓国のLGが18%のシェアと、海外メーカーが電池市場を席捲するようになり、日本勢ではパナソニックが12%のシェアに踏みとどまるも、全体的には中国勢と韓国勢に市場を占められてしまう事態になりました。

鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)
鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)

ちなみに以前、日本勢2位だったAESCは日産から中国企業に売却され、現在は中国メーカーとして再建中です。

このシェア逆転の理由はEV化にあります。当たり前の話ですが、EV車はハイブリッド車の10倍の電池量を搭載しているので、EV車に注力する国の方が電池のシェアを伸ばすことができるのです。

「トヨタが全固体電池の開発で一歩先んじたので、それで競争地図はまた描き変わるんじゃないのか?」

という希望もあるかもしれません。トヨタが発表した全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と異なり、10分で急速充電できるので、業界の競争地図を再度塗り替える可能性があります。

業界の未来を変える大きな技術だが…

それをトヨタは「2027年には市場投入したい」と言っていますが、専門家の多くは2030年までに全固体電池が普及するイメージはないと断言しています。というのも、全固体電池にはトヨタが発表した技術以外にも、乗り越えなければならない技術的な課題がまだまだたくさんあるからです。

全固体電池の難点は3つあって、固体電解質素材のイオンが動きにくかったこと、充電・放電をしているうちに電極が膨張収縮するせいで、電極と固体電解質との間に亀裂が入って使えなくなる欠点があったこと、硫化水素の発生リスクがあったことです。

業界の未来を変える大きな技術であることには違いないのですが、時間軸で捉えると、3年後の逆転の武器として期待するのは早計だと考えます。

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