日本車が世界に置いて行かれた3つの理由

すると、それまでは安全に走行できる設計になっていたとしても、車を制御するソフトウェアを新しくダウンロードすると、アップデートに対応しきれない箇所が出てきて、車が突然走らなくなってしまったりするリスクが生じるのです。昔のパソコンでは、OSをアップデートすると古いソフトが動かなくなる現象がありました。あれと同じ現象が起きかねないのです。

テスラはそれを見越して、ECUをわずか3個に絞り込んだ設計をしています。だから車を運転するソフトウェアを頻繁に更新し続けられるのです。

さて、日本車メーカーが自動車のSDV化、言い換えるとAI化の波に乗り遅れたそもそもの原因はAI化とワンセットとなりうるはずのEV化に消極的だったからでした。

日本がEV化に消極的だった理由は3つあります。

① 日本車がよく売れていた市場は日本、北米、東南アジアだったのに対し、EV化が進んでいたのは欧州、中国だったこと。地理的に日本車が弱い市場でEVが拡大したため、危機感の共有が遅れた
② EV車は性能が低いのに価格が高いうえに、充電に時間がかかるなど欠点が多いことから、日本では官民ともに、EV車は売れないと思っていた
③ トヨタはHV技術において世界より先行していたので、EVが立ち上がった後でも短期間で追随可能だと思っていた

以上、3つの理由から2024年時点で日本車メーカーはやや絶望的に見えるほどEV車市場での存在感を失ってしまったのでした。

電気自動車の充電
写真=iStock.com/Marcus Lindstrom
※写真はイメージです

競争優位が「技術」以外に移った途端に追いつけない

ここでは、3番目の理由であるなぜ「技術で後追いできる」と油断していたのかについての話を進めていきたいと思います。

私のもともとの本業は大企業の戦略コンサルタントです。なので、競争戦略の観点からこの現象を説明すると、技術が競争優位の最大要因となっている間は追随できるが、業界の競争優位が技術以外のものに移ってしまうと、追随は難しくなってしまうのです。

実際、すでにEV車市場はSDV車市場へと進化を遂げつつあり、結果として競争優位のシフトが始まっています。具体的には電池などの資源獲得競争、生産設備や設計要素によるコストの優位性競争、AI性能が左右する自動運転技術の優位性競争、スーパーチャージャーやSDVのようなネットワークの外部性の優位性競争など、2020年代のEV車を取り巻く競争は、EV車そのものの技術から大きくシフトしています。

2010年代初期は、ことEV技術に関して言えばトヨタが抜きん出ていて、日本が世界をリードする立場にありました。EV技術という視点で言えば、当時の市場はハイブリッドカーがメインでした。そのため、最も重要な電池の分野でも日本勢が世界シェアのほぼ3分の2を占めていました。