平均視聴率30%の箱根駅伝は正月番組の中でも超優良コンテンツだ。屈指のスポーツビジネスである駅伝の収益率を上げ、チームや選手へ還元できるようにするにはどうしたらいいのか。スポーツライターの酒井政人さんが、東大卒の元プロ野球投手で、経営学者・桜美林大学教授の小林至さんにインタビューした――。(前編/全2回)

※本稿は、酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

都内電車内に掲出された99回大会の中吊り広告
撮影=プレジデントオンライン編集部
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箱根駅伝は2日間、14時間以上にわたって全国中継され、30%近い平均視聴率を叩き出す。そのため、夏の甲子園(全国高校野球選手権)に匹敵するほどの日本最高峰の興行であるとも言われている。しかし、その価値に見合う“活用”がうまくなされていないばかりか、不明瞭な資金の流れや責任の所在など問題点も多い。国内外のスポーツビジネスに精通する小林至氏にこれからの箱根駅伝のあるべき姿について話を伺った。

スポーツの市場規模アメリカは80兆円、日本は10兆円

――小林さんといえば、東京大学出身の元プロ野球選手として有名です。現役引退後は、様々な大学で教えられて、現在は桜美林大学の教授であり、経営者の立場でもあります。また一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)の理事を務められており、米国のスポーツ事情にも精通されています。日本版NCAAと呼ばれるUNIVASは2019年に発足しました。大学スポーツは変わりつつあるのでしょうか?

UNIVASを立ち上げた理由のひとつに、大学スポーツの収益化もありました。日本再興戦略2016で「スポーツで稼ぐ国へ」という経済政策が打ち出されました。2015年に5兆円ぐらいだった日本のスポーツマーケットを15兆円にしよう、と。そのなかで大学スポーツのコンテンツ化が重要施策だということになったんです。

――海外はどれぐらいスポーツで稼いでいるんでしょうか?

欧米ではスポーツが産業化されていて、特にアメリカは80兆円くらいの市場規模です。日本は今も10兆円に届いていません。UNIVAS立ち上げ当時、米国のNCAA(全米大学体育協会)のような大学スポーツを横断的に統括している組織が日本にはありませんでした。設立の趣旨のひとつである、大学スポーツの商業化、産業化はまだまだ道半ばですが、プラットフォームができたことで大学スポーツの底上げに向けて様々な取り組みを行えるようになりました。

試合の動画配信がそのひとつで、4000近い試合をライブ配信しています。これまで、会場に行かなければ目にすることができなかった試合を、世界のどこにいても、実況付きで視聴できるようになったのは画期的なことだと、大変好評です。ただし、それがマネタイズできているかというと、まだそこまでいっていない状況です。

――UNIVASは女子マラソン界のレジェンドである有森裕子さんが副会長を務めていますが、陸上競技団体は未加盟です。どんな理由があると推測されますか?

UNIVASに加盟していない団体は、陸上だけでなく、メジャーな競技でいえば、サッカーと卓球も加盟していません。我々としては、人気スポーツには入ってもらいたいんです。野球は、一般的には唯我独尊のイメージがあるかもしれませんが、UNIVASには加盟してくれました。陸上でいえば、箱根駅伝を主催している関東学連は法人組織ではなくて、任意団体ですよね。法人化していないということは、外部から干渉されたくないんじゃないでしょうか。任意団体であれば、法人に必要な様々なルールに従う必要がありません。口座も個人名ですから、金銭管理も自分たちの好きなようにできる。

――NCAAはアメフトとバスケが稼いでいるイメージです。

そうですね。稼いでいるのはアメフトとバスケだけで、他はすべて赤字と言ってもいいでしょう。アメフトとバスケで稼いだお金を分配している状況ですが、NCAAはよくできたシステムなんですよ。ディビジョン1(上位約360校)にいるためには、14の運動部をNCAAルールに従って運用しないといけない。日本でいうと強化指定部のようなイメージに少し近いですが、違うのは、NCAAルールは、奨学金やその数、リクルート、学業成績、活動費、活動時間など、600近い細かい規則があって、面倒だし、カネもかかる。

大学によっては、人気のあるアメフトとバスケは持ちたいが、あとの部活動については、あまり力を入れないで済ませたいと思っても、NCAAに加盟するからにはそうはいかないということですね。大学は、NCAAルールのもとで運用する運動部については、競技にかかるすべての費用(用具、遠征費など)を負担しないといけないんです。

――スポーツイベントとして箱根駅伝をどう感じていますか?