死を実感した「犬の心臓が止まる瞬間」

【鈴木】これは話そうかどうしようか迷っていたんだけど、しゃべっちゃうね。この間、知り合いから「犬を預かってくれ」って言われたの。名前はたおん。そのたおんが病気で余命がなくて、最期に良い医者に見せたいんだけど、その人は遠くに住んでるんだよね。恵比寿ならすぐ病院に行けるからってことで、ちょっと預かったんです。残念ながら持たなくて、この夏の猛暑のさなかに死んじゃったんですけど。

【叶井】預かってどれくらいで?

【鈴木】2週間。

【叶井】結構長かったですね。

【鈴木】それだけ一緒にいたら情も移るよね。僕はもともと犬好きだから。そのたおんが死ぬときに、生まれて初めての経験をするんですよ。飼い主とみんなで最期を看取るとき、まだ生きているたおんを触りながら、僕は思わず心臓に手を当てたんです。そうしたら、その心臓がね、ドクンドクンと波打っているのが突然、止まった。これは忘れないですね。そうやって死を実感したのは初めてでした。自分の親父でもおふくろでもそんなことはなかったから。死ぬっていうのは、こういうことなのかと実感した。

死を実感した「犬の心臓が止まる瞬間」
写真=iStock.com/webphotographeer
死を実感した「犬の心臓が止まる瞬間」(※写真はイメージです)

「この世にまったく未練がないなと思った」

【叶井】鈴木さんだったら、「余命半年です」って言われたらどうします?

【鈴木】何もしようがないよね。普通にしていたい。そうはいっても実際に宣告されたらジタバタするんだろうけれど。

【叶井】いや、意外にしないんじゃない? 僕は全然ジタバタしてない。「余命半年」って言われて、この世にまったく未練がないなと思ったもん。もう終わらせてもいいな、って。

【鈴木】なんで? 居座ったらいいんじゃないの。死んじゃうってつらいですよ。親友が亡くなってしまったって、さっき言ったでしょう。そのとき僕は30歳だったんだけど、身代わりとして生きなきゃいけないなって気分はどこかにあるんですよ。そいつにはいろいろ夢もあって、何かをやってのけたい人だったの。僕なんかは本当のことを言うと、そんな気持ちはまったくなくて、そいつのそばにいて「そんなこと考える人がいるんだな」と思っていたら死んじゃった。そこで何か託されたような気がしてね。少しは頑張らなきゃって思ったのは間違いない。