大学の格差問題――予算のある大学は年間2億円近い

日本陸上界のなかで「箱根駅伝」は異質な存在だ。熱狂的な人気と、巨大マネーを動かす一方で、他種目の選手からは妬まれている。長距離以外の種目でオリンピックに出場した元選手は「僕らはオリンピックに出てもさほど騒がれなかったですけど、長距離は箱根駅伝に出るだけで『凄い』と言われるんです」と苦笑いしていた。

箱根駅伝常連校のある監督も、「日本テレビのおかげで箱根駅伝が大きくなったのは間違いないんですけど、その弊害もあります。全国で一番になったわけでもないのに、関東ローカルの大会で少し活躍しただけで、マスコミが取り上げてくれるのでカン違いしている子がいるんですよ」と漏らしている。

関東インカレを取材していても長距離の熱狂ぶりを実感している。他の種目は世界大会に出場経験のある選手くらいしか取材は殺到しないが、長距離種目は入賞しなかった選手でも記者やカメラに囲まれるのだ。同じ大学の陸上部員でも待遇は大きく異なる。強豪大学の場合、長距離はスポーツ推薦が毎年10〜15枠ほどあるが、他の種目は非常に少ない。長距離種目の場合、インターハイに出場するレベルでも“争奪戦”になるが、他の種目はインターハイで入賞してもスポーツ推薦で入学するのが簡単ではない。

駅伝出場大学
撮影=プレジデントオンライン編集部

近年は大学の“格差”も問題視されている。今年は早稲田大学競走部が駅伝強化プロジェクトのためのクラウドファンディングを実施して、2000万円以上の金額を集めたことがスポーツ界で注目を浴びた。

1914年に創部した早稲田大学競走部は箱根駅伝で13度の総合優勝。瀬古利彦、渡辺康幸、竹澤健介、大迫傑ら日本長距離界のスーパースターを輩出してきた。大迫が大学1年時の2010年度には「駅伝3冠」(出雲、全日本、箱根)に輝くも、その後は苦戦を強いられた。

輝かしい歴史を誇る名門だが、他の駅伝強豪校と比べると、決して“恵まれた環境”というわけではない。スポーツ推薦は長距離だけだと3枠ほどしかないのだ。

そして今回のクラファンで“資金不足”も表面化したともいえるだろう。他の駅伝強豪校と比べてスポーツ推薦枠が極端に少ないだけでなく、授業料免除なども基本的にはない。

花田勝彦駅伝監督も現役時代はいくつもの奨学金を利用して、学生生活を送っていた。具体的な費用を話してくれる指導者はなかなかいないが、筆者が聞いた範囲では、年間の強化費(合宿や遠征費など)は数千万円というところが多い(免除した授業料、大学の設備費などは除く)。

なかには2億円近い大学もあるようだ。強豪校は夏に10日ほどの合宿を3回、12月(箱根駅伝メンバーを中心に20人ほど)に1回、3月に1回、年間で50日ほどは合宿をしている。部員50人のチームが1人1泊8000円(3食付)×50日、移動費をプラスすると、年間の合宿費だけで2000万円近くかかる(部員個人がいくらか負担している大学もある)。チーム強化には多額なお金が必要なのだ。

大学の予算だけでなく、宗教系の大学では寄付金が多かったりもするし、あとは契約しているスポーツメーカーからサポートを受けている大学もある。これらのトータルが部の運営費となるわけで、指導者の“力量”だけでチームは強くならない。