ほとんどの患者がリハビリを達成し、家へ帰っていく

同病院は開設から6年で次のような実績を残している。

自宅へ戻る在宅復帰率は94.1%。全国平均の78.8%(2019年)よりも高い。重症患者改善率は61.3%。全国平均の23.1%(2019年)をはるかにしのぐ。そして、短い入院期間でどれだけ日常生活能力を高めることができたかを評価するリハビリテーションの実績指数は61.6。全国平均の指数値は23.1(2019年)である。

同院は全国一とは言わないけれど、全国でもトップグループに入る。

また、在宅復帰率の数字だが、全国平均が78.8%というのは日本のリハビリ病院全体の実力を示している。かつては、入院したらほぼ寝たきりだったのである。それがリハビリ病院を拡充し、専門性を高めたことで、高齢の患者が自宅で天寿をまっとうできる割合は高くなった。

酒向は言っている。

「うちの病院に来た患者さんの望みは二つ。高齢の患者さんは『早くうちに帰りたい』。中年の患者さんたちは『仕事に戻りたい』。日本人は真面目なんです。病気になっても仕事をしたいんです」

わたしはふと聞く。

「かわいい子と遊びたいなんてオヤジの患者もいるんじゃないですか?」

酒向は真面目な顔になる。

「何を言っているんですか、野地さん。でも、ごく稀にいるんですよ。そういう人は看護師の手を握ってきたりしますね。でも、うちの病院は握手以上のセクハラは絶対、禁止です。退所していただきます。それに認知症でセクハラする人はいないんですよ。そういう方は認知の振りをして握ってくる。若い女性職員が多い職場なので、そりゃあ、もう退所ですね」

リハビリをやらない病院が優良病院と言われてしまう

コロナ禍になってから、リハビリ病院は苦難に立ち向かうことになった。入院の見舞いを断り、外来患者を制限しても、新型コロナに感染する入院患者が増えたのである。ねりま健育会病院も例外ではない。1年半の間に5回のクラスター感染が起きた。酒向を始めとするスタッフは疲弊した。しかし、在宅復帰率などの実績はコロナ禍であってもちゃんと維持している。

彼はこう言っている。

「実績が落ちていないのはリハビリを続けたからです。一方、リハビリをちゃんとしていない病院は感染が起こっていません。リハビリをやらないから患者と接するのも少ない。コロナもクラスターも起こらない。すると、今の時代はそういうところが優良病院と呼ばれるんです。クラスターが起こらない病院が感染対策を徹底したからだと……。リハビリをしない病院が感染対策を徹底した病院となってしまう。おかしなことです。

リハビリの効果が表れるのは患者さんをベッドから起こして、歩かせて、いろんな動作をして、しゃべる練習をして、食べる練習をして、頭を使う練習をすること。とにかく触れることなんです。ただし、これをしていたら感染してしまう。新型コロナには潜伏期があります。確定診断できない時期があるので、看護師、療法士がその間にリハビリをしたら感染してしまう。もう、5回も起こりました。それでも私はリハビリの質を落とすことはしません」