一度寮付き派遣をやったら負のスパイラルに陥る

布団をはじめとしてカーテン、家電品、ロッカーなどの家財道具は揃っているから体ひとつで入居できる手軽さがある。派遣先が変わって転居する場合も身の回りのものだけ持って移動できるからお手軽だ。

「きちんと部屋を借りて就職活動をすればいいんですが、一度派遣会社の寮に入ってしまうとなかなか出られない。部屋を借りて生活必需品を揃えることを考えると、やはり寮付きの派遣労働を選んでしまう。その結果がこれですよ」

直近に働いていた工場では、派遣は40歳未満が内々の決まりらしく、38歳ぐらいになると契約期間が終了したところでカットされていた。

「それを見ていたので次は俺が危ないと感じていました。なので職探しを始めたのですが上手くいきませんで……。面接できても話しぶりから地元の人で32、3歳ぐらいまでという感じでした」

ハローワークにも何回か通ったが、1時間以上も待たされた挙句、年齢のことをつべこべ言われる。

「一度寮付き派遣をやったら負のスパイラルに陥るってことです」

警備の仕事は求人情報誌で見つけたもの。公休日を使って2度面接を受け、どうにか採用してもらえたということだ。

派遣仲間とは「じゃあな」でおしまい

ようやく派遣工から脱せられるが、強く思うのは「こんなことはやっちゃ駄目」ということ。まず収入がいつまで経っても安いまま。募集案内に出ているような金額はなかなか稼げない。

「収入の高い月、低い月があって年収で見たら300万円がいいところですよ。自分の場合、どこでどんな仕事をしても年収は290万円±10万円ぐらいだった。同じ仕事をしているのに安く使われている。直接雇用の期間工より100万円、正社員より150万円も低いのだから嫌になります」

金銭的な貧しさに加えて人間関係の貧しさも大きく感じたことだ。

「今回、切られて辞めることになったわけですが、一緒に働いていた人たちから労いの言葉なんてひとつもありません。正社員の人はもとより、派遣仲間も『じゃあな』でおしまいでした。ドライというか冷たいというか、人のことなんて知ったことじゃないという感じです。俺もそうですけどね」

同じ寮で暮らしていた人たちとも親しい関係にはならなかった。家族関係や家庭環境に関する話はタブーみたいなところもあって、付き合いは上っ面。2年間でまったく会話のない人もいたほどだ。

「中には変わり者というか、常識のない人もいますね。こういう奴だから50歳にもなって派遣工で転々としているんだなと思うような人も多かった」

挨拶もまともにできない人、手癖の悪い奴、ギャンブル好き、風俗好き、虚言癖のある人、派遣仲間から少額の金を借りたまま姿をくらました人、労働運動に夢中な左翼かぶれ……。全員がそうというわけではないが変わった人の出現率は高いと思う。

増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)
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「派遣切りになったわけで、ふざけるなよって思いはあるけど、これでオサラバできるという安堵あんど感もあるんです。これをいいきっかけにしたいですね」

寮付きの工場派遣をやるようになってから郷里に帰るのは正月とお盆だけ。両親、姉弟はともかく、他の親戚や地元の友人たちとはすっかり疎遠になってしまった。工場派遣をやって得たものや楽しかったことは何もない。こんな働き方をしないで暮らしていきたかった。

「派遣じゃなく直接雇用で働けるのは10年ぶり。次の目標は寮を出て自分で住まいを確保すること」

6畳のワンルームでもいいから自分で契約して家賃を払う。当たり前の暮らしを取り戻したいと願うばかりだ。

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