「左派」や「右派」の軸は意味を失っている

つまりこれを、「右派」の問題にだけに還元してしまうと、見えなくなってしまうものがある。これはむしろ、海外のシステムを導入する際に、その背景や条件を理解したり、必要な制度構築をすることなく、そのまままねをして事足れりとする態度の問題なのではないかと、私には見える。こうした提案自体は、「先進的」でも、「グローバルスタンダード」ですらもないように見えるのである。

このように考えれば、もう従来的な「左派」や「右派」という軸自体が、意味を失っていることが明らかだろう。

変質せざるをえなくなった自民党

一強となった自民党のなかで、「左派」の主張はむしろ、かつての野党の役割をも兼ねざるを得ず、理想主義的で「リベラル」寄りになってきている。そして、自民党のなかでの「右派」も、こうした「左派」の態度に呼応するように、「リベラル」な装いをまとうようになっている。

例えば、先のLGBT法案に対する自民党内の反対意見は、つねに「保守派」「右派」と報道されていた。しかし少なくとも初期の議論では宗教的なイデオロギー色はなく、実は「女性や子どもの人権や安全」という論理で批判されていた。イデオロギー色を出したら、とたんにリベラルなマスコミに叩かれ、世論の支持を失うため、イデオロギー色や宗教色は出しにくくなったのだろう。「LGBT法案が成立したら、皇室の危機が訪れる」といった類いの批判が強くなったのは、ほぼ法案の成立が確定してからである。

こうして、一強となったがために変質せざるを得なかった自民党に対して、「保守」の色が足りないという批判が外部から出始めたという構図になっているように、私には見える。

条例案の真の問題点

話を埼玉の虐待禁止条例案に戻そう。

虐待を防止したいという願いに、賛同しない人はいないだろう。しかし問題は、こうした理想主義的な目標を掲げたにもかかわらず、そのために何が必要であるのか、地に足をつけて考えることのないその態度なのではないか。具体的な子育て支援サービスの提供や、保育園や学童の拡充などをすることなく、海外のシステムをただ輸入すればいいと考え、精神論的に乗り切らせようとする、その安直さなのではないだろうか。

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