リニア中央新幹線の着工を拒否し続けている静岡県の川勝平太知事が、約100年前に大渇水をもたらした「丹那トンネル工事」を持ち出した。ジャーナリストの小林一哉さんは「100年前とは地質調査の正確性も工事の技術もまったく違う。いたずらに県民の不安を煽るべきではない」という――。

「100年前の大渇水」をリニア妨害に利用する川勝知事

約100年前のJR東海道線・丹那トンネル(全長7804m)掘削工事で箱根芦ノ湖3杯分に相当する、約6億トンの水が静岡県の丹那盆地から失われた渇水被害は、地元では知られている。

着工から開通まで約16年もの歳月がかかり、数多くの犠牲者が出た世界のトンネル史に名を残す超難関工事としても有名である。

川勝平太知事は記者会見などで度々、リニア問題にからめて丹那トンネルの大渇水を取り上げてきた。

2021年10月26日の川勝知事会見。丹那トンネルの実例を踏まえたリニア工事への懸念を発表した(=静岡県庁)
筆者撮影
2021年10月26日の川勝知事会見。丹那トンネルの実例を踏まえたリニア工事への懸念を発表した(=静岡県庁)

静岡県のリニア担当者は、JR東海の「全量戻し」の影響について、疑念や懸念を示す材料のひとつに丹那トンネル工事の渇水をわざわざ挙げて、地元の会合などで説明している。

そんな県リニア担当者の“情報戦”が功を奏してか、最近、静岡県内、特に大井川流域の住民らの間で、リニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区工事によって、再び、丹那盆地の大渇水と同じ惨事が繰り返されるのではないかという不安や懸念が広がっている。

また、「リニア工事で丹那トンネルの二の舞になる」などというフェイクニュースが流れ、不安感をさらに煽っている。

本稿では、丹那トンネル工事を正確に説明するとともに、一体、なぜ、このような科学的根拠のないうわさの類いが信じられるようになってしまったのか、わかりやすく伝える。