「自分が欲しいものをつくればいい」

国内家電メーカーが軒並み苦戦を強いられている。ソニー、パナソニック、NECといった名門企業が、大幅赤字を計上し、大規模な人員削減を余儀なくされている。一方で、時価総額で世界最高を記録したのがアップル。スマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad」で市場をリードする。かつてソニーに在籍し、米国アップルのマーケティング担当副社長も務めた前刀禎明氏に、家電メーカー再生の処方箋を聞いた。

――「ウォークマン」のように世界中の若者に支持された大ヒット商品を世に送り出したソニーは、なぜ凋落したのか。
リアルディア社長 
前刀禎明
(さきとう・よしあき)

前刀 転換点は1995年4月、出井伸之氏が社長になったとき。過剰投資で悪化していた財務体質を改善するため、独立採算のカンパニー制を導入した。社内ではP/L(損益計算書)が幅を利かせた。そんな風潮が創業以来続いてきた“尖ったものづくり”という冒険心を現場から奪ってしまうことになった。

しかも出井氏は「これからはエレキの時代ではない」と発言した。ハード(製品)を単体で売って終わりではなく、インターネットを含むネットワークにつないで稼ぐとしていたが、サービスの全体像が明確に見えていなかった。

その反省の上に立ってソニーは、その後エレキの復活を宣言し、ハードオリエンテッド(製品志向)を強調している。しかし、過去の成功に引きずられていて、アップルのように、誰も経験したことのないライフスタイルを提案することができていない。これはソニーに限らず、国内家電メーカーに共通する弱点だ。製品を通して、どのような価値を、どんな人たちに届けるかというビジョンをまったく描けずにいる。

――いずれの会社も、世代交代が進み、もはやそこには創業者精神はない。

前刀 この4月、ソニーCEOに就任した平井一夫社長の経営方針説明会にはがっかりした。進むべき方向と難局に挑む決意を述べる際、その視線はほとんど手元の台本に向けられていた。しかも、「どんなイノベーティブな製品を?」という、これからのソニーに関する問いに対して、ミラーレス一眼、プレイステーションなど過去の製品を挙げ、夢もビジョンも感じられなかった。

やはりメーカーのトップは自社の製品が誰よりも好きでなければダメだ。ホンダの創業者・本田宗一郎氏は、工場に何度も足を運び、技術者たちと議論していた。ところがいま、各電機メーカーの現場からはコスト重視といった言葉しか出てこない。そんな思考停止の状態では、新たな開発の糸口は見えない。

アップルのスティーブ・ジョブズ氏は「何が欲しいかなんて、それを見せられるまでわからない」のだから「自分が欲しいものをつくればいい」と断言した。そして実際に自ら考え、携帯電話からキーボードをなくしタッチパネルにするといったユーザーの半歩先、一歩先の製品を生み出し、市場を創造してきた。

――ソニーを含めた大手国内メーカーが、以前の輝きを取り戻すための処方箋は?

前刀 かつてない危機に直面しているという認識に立って、まず“原点”に立ち返るべきだ。そして、創業理念と基本的な経営戦略・戦術を徹底して突き詰めるべきだろう。復活の方程式は必ずそこにあるはず。思考停止から脱却し、常に新しい価値創造や市場の再定義を考えるべきだ。アップルにしてもそうだが、デジタル時代はものづくりがファブレス化し、部品があれば誰でも組み立てられるため差別化がしにくい。そのため、最新の商品ほどアナログな部分がこれまで以上に重要になってきている。例えば、スマホを持ったときの手触りや質感、外見の重厚さ。それは日本企業が得意としてきた分野だった。日本人特有のきめ細やかな感性を生かすことができる。そこで再び、他の追随を許さない、消費者がワクワクするような新製品開発をすることは可能なはずだ。

リアルディア社長 前刀禎明(さきとう・よしあき)
1958年生まれ。慶應義塾大学大学院管理工学修士課程修了。ソニー、べイン・アンド・カンパニーなどを経て、99年ライブドアを創業。2004年、米国アップルマーケティング担当ヴァイス・プレジデント(副社長)に就任。同年アップル日本法人社長を兼務。07年、人材教育会社、リアルディア設立。近著に『僕は、だれの真似もしない』がある。