ツイッター運営会社がCNN記者からの問い合わせに「うんちの絵文字」を返したことが話題となっている。PR戦略コンサルタントの下矢一良さんは「ツイッター運営会社のイーロン・マスク会長が世界一の発信力を持つ経営者だからできることだ。マスコミを『マスゴミ』と呼ぶ風潮を受けた対応だが、普通の経営者は真似しないほうがいい」という――。
米実業家のイーロン・マスク氏(=2020年12月1日、ドイツ・ベルリン)
写真=AFP/時事通信フォト
米実業家のイーロン・マスク氏(=2020年12月1日、ドイツ・ベルリン)

ツイッター運営会社の「大人げない広報対応」

今月、またも世界各地でツイッターがつながりにくいなどの不具合が発生した。こうしたトラブルが生じた際、既存メディアは必ず当事者のコメントを求める。だが、ツイッターの広報対応は、かなり異例なものだった。今回の不具合を伝えるCNNの記事を引用する。

CNNはツイッターにコメントを求めたが、「うんちの絵文字」だけが返ってきた。

実は今年3月、ツイッター運営会社のイーロン・マスク会長は自身のアカウントで「press@twitter.com(メディア対応用のメールアドレス)は今、うんちの絵文字で自動応答する」と投稿している。

CNNの記者も「うんちの絵文字」が当然、返ってくることを知っていたはずだ。「『うんちの絵文字』が帰ってくること」自体を記事に書きたくて、あえてコメントを求めたのだろう。

私はかつてテレビ東京の記者として企業の広報対応に直に接し、現在は企業の広報PRの企画や実行支援をしている。20年以上、メディアや広報に携わっているが、このような「乱暴な対応」を見たことがない。こうした「大人げない広報対応」は批判の的になっても不思議ではないものだが、ネットでの反応は概ね好意的だ。

既存メディアとの対決姿勢を鮮明にしてきた

では、なぜマスク氏の文字通りの「クソ対応」は批判を浴びなかったのか。それは、マスク氏が「既存の秩序を打ち壊す変革者」として認知されているからだろう。「既存メディア」という「古い秩序」に乱暴な態度を取ったとしても、マスク氏の「平常運転」と見られて、支持すらされてしまうのだ。

マスク氏は今回の「絵文字対応」に限らず、これまでも既存メディアとの対決姿勢を鮮明にしてきた。マスク氏は既存メディアの取材に滅多に応じないことで知られている。また昨年12月には、マスク氏の取材を担当しているニューヨーク・タイムズなど、複数の記者のアカウントを停止した。

マスク氏はツイッターを買収後、広報担当を全員解雇したという。マスク氏の経営する電気自動車メーカー・テスラ社にも広報担当はいない。すべての情報発信を「マスク氏自身が直接、ツイッターで発する言葉」に集約しようとしているようだ。

世界的な注目を集めるマスク氏のツイートは擬似的ではあるが、既存メディア向けの記者会見のようになっていることも指摘したい。マスク氏のツイートを世界中の既存メディアがこぞって、記事にしているからだ。