1回の出演で数百万人の視聴者の目に触れる

このような「SNSに極端に特化した広報活動」だが、「マスク氏ほどの経営者だからこそ可能」と言える。フォロワー数は日本の人口より多い、約1億5000万。既存メディアよりマスク氏自身の発信力のほうが強いのだ。「世界一」の発信力を持てば、「『自分の言葉の編集権』を既存メディアに与えたくない、既存メディアを通じた広報など不要」と思うのは自然だ。

イーロン・マスク氏のツイート
イーロン・マスク氏のツイート(写真=Jirka Ka...../CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

では、マスク氏のような「世界最強の発信力」を持たない経営者が、既存メディアの取材に応じるメリットとは何だろうか。非常に短絡化すると、それは次の2点に集約できる。

ひとつは、認知度を高められることだ。全国放送のテレビ番組に一度でも出演すれば、数百万人の視聴者の目に触れることになる。これほどまでの発信力を自前で持つ企業は、まず存在しない。「日本最大の企業」であるトヨタが鳴り物入りで始めた「トヨタイムズ」ですら、YouTubeの登録者は29万人に止まっている。

「テレビに出た」が採用戦線の武器になる

もうひとつは、信用度を得られることだ。近年、ネットでは「マスゴミ」と揶揄されることも多いが、それでも一定の信用度は維持している。「テレビ番組で紹介されました」と貼り出している飲食店が少なくないのは際たる例だろう。

私はベンチャー企業の広報PRを支援しているが、最近特に増えているのは「若年層の採用のためにテレビ出演したい」という依頼だ。「若者のテレビ離れ」が言われているのに、なぜなのか。

それは「番組を見ている若者に『直接』アピールしたい」ということではない。「テレビに出た」という事実を採用戦線での武器にしたいのだ。

コーポレートサイトやSNSでテレビ出演の「事実」を告知する。そうすれば若者に「テレビで取り上げられる会社であれば将来性もあり、社会的に意義のあることに取り組んでいる会社なのだろう」と思ってもらいやすい。これも既存メディア出演で得られる信用度を活かした例だろう。