トヨタの「ヤリス」が売れている。3年連続で年間乗用車販売台数の1位だ。高千穂大学の永井竜之介准教授は「飛び抜けた強みがあるわけではなく、すべての要素がちょうど良くまとまっていて穴がない。そのちょうど良さこそがユーザーから選ばれる理由だ」という――。

多くの日本企業にとって学べることがある

3年連続で「日本一売れた車」になっているのが、トヨタの「ヤリス」だ。日本自動車販売協会連合会の統計によれば、2022年の年間乗用車販売台数のトップ10のうち、トヨタ自動車の車種が7台を占めており、その中でも1位に輝くのがヤリスである。

この年間1位は、通常のヤリスにSUVタイプ「ヤリス クロス」とスポーツタイプ「GRヤリス」を合算した数字である点、また軽自動車も含めた台数ではホンダの「N-BOX」が上回っている点には留意が必要だが、ヤリスは2020年2月の発売以来、15万1766台(2020年)、21万2927台(2021年)、16万8557台(2022年)と1位の座を守っている。

2021年3月1日、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021に選ばれたトヨタ「ヤリス」
写真=EPA/時事通信フォト
2021年3月1日、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021に選ばれたトヨタ「ヤリス」

2021年には、名だたる欧州車を押しのけ、日本車としては10年ぶりとなる「欧州カー・オブ・ザ・イヤー賞」を受賞している。この賞は、欧州の9カ国、9つの自動車誌が主催する、欧州で最も権威ある自動車賞のひとつで、過去1年間に発売された中で最も優れた1台として選ばれた。ヤリスは、燃費性能や操縦性といった機能面において高水準なだけでなく、デザインにも秀でた車種として、世界的に高い評価を集めている。

自動車は、日本のモノづくり「メイド・イン・ジャパン」を象徴する存在だ。その自動車で、3年連続で日本一の座を獲得し、さらに世界でも通用するヒット商品になっているヤリスは、多くの日本企業が学ぶべき好事例である。ここでは、そのヒットの要因として、「ちょうどいい」という価値に焦点を当ててみよう。

自動車としての「バランスの良さ」が特徴

ヤリスは、「軽く、小さく、扱いやすく」をコンセプトに、それまで「ヴィッツ」の名で親しまれていた車種をフルモデルチェンジして誕生した自動車だ。もともとヴィッツは海外ではヤリスの名で販売されており、2020年2月のフルモデルチェンジを機に、国内外でヤリスへ名称を統一した形である。発売開始直後の1カ月で、当初目標としていた月間販売台数の5倍近い、約3万7000台の販売に成功するスタートダッシュを決めて、その後3年間にわたって人気を継続している。

ヤリスが人気を集める要因となっているのが、自動車としてのバランスの良さだ。確かに燃費性能はすごいが、それだけではない。操縦性、安全性、デザイン、価格帯など、すべてがバランス良く、「ちょうどいい自動車」だからこそ、飽きられることなく、幅広いユーザーに支持されている。