日本のユーザーは「尖り」を求めていない場合が多い

自動車を持たず、必要なときだけカーシェアリングサービスを利用する、という選択肢が当たり前になっている現在、「わざわざ自動車を買う」には、それ相応の「買うに値する理由」が必要になる。「安全で便利に使える」「目立ちすぎず、でもデザインが良い」「選びやすく、買いやすい」「走りやすい」……こうしたさまざまなユーザーの「本音のちょうどいい」に応えられているからこそ、ヤリスは3年連続で日本一売れた自動車になっている。

この「ちょうどいい」という価値は、じつは、商品開発において見落とされやすいものだ。商品開発では、社内的な都合によって、リスクを恐れるあまり愚直なまでに前例に従って「ほとんど同じモノ」を作ったり、反対に前任者との違いを打ち出そうと「尖りすぎたモノ」を作ったりすることが珍しくない。

特に、マーケティングの基本とされる「他と違う価値」を重視するあまり、既存商品との違い、ライバル商品との違いを重視しすぎた結果、他にはない尖った機能やデザインを良いモノのように考えやすい。しかし、特に日本のユーザーは、企業が思う以上に「尖り」を求めていない場合が多い。たとえ事前調査で「良いと思う」「好みだ」などと、新機能や新デザインについて好意的な回答をしていたとしても、それを実際に自分がお金を払って買うかどうかは別の話になる、ということを忘れてはならない。

チェックボックス付きのアンケート、オンラインでの調査フォームへの記入
写真=iStock.com/anyaberkut
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「見せかけの価値」を追い求めていないか

また、ユーザーの期待を超え続けるために、商品の価値を高め続けようとするあまり、「自分たちが価値と思いこんでいるだけで、じつは本当の価値になれていない『見せかけの価値』を追い求めていないかどうか」について、定期的に立ち止まって自問自答する必要がある。一般のユーザーがほとんど必要としていないテレビやスマートフォンの画質・音質・耐久性などのように、じつはユーザーが求めていない「見せかけの価値」をどれだけ追求したところで、その商品は「要らない機能があって、無駄に高価格」という、ただの「過剰品質」として評価されてしまう。

この「過剰品質」は、多くの「メイド・イン・ジャパン」が直面する大きな課題のひとつとなっている。多機能や高性能を追求したはずなのに、ユーザーに評価されなかったり、日本では受け入れられても世界ではまったく売れなかったりする状況が少なくない。その一因は、見せかけの価値に勘違いをして、商品が過剰品質に陥っている点にある。ヒット商品になるためには、より的確に、顧客の本音のニーズに応えられる「ちょうどいい価値」を創ることこそが重要となる。

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