大手電力の一斉値上げを防ぐ対策はどうなったのか

話を戻す。

相次ぐ電気代の値上げは、大手電力会社各社の値上げ申請が国に認可されたためだ。冒頭にも触れたように電力は食品と同じく生活のインフラである。全ての製造業、工場、病院、小売店、レジャー、公共施設など電気を使わない場所はない。一般家庭だけではない。電気代の高騰は、日本の全ての面で悪影響を及ぼす。究極の生活必需品が実は電気なのだ。

元経産省で政策アナリストの石川和男氏は「生きていくのに必要なのは、空気と水、そして電気」と話す。われわれが送っている現代生活を考えると、石川氏の指摘は当たっている。

ここで一つ疑問が浮かぶ。「確か大手電力会社が横一列に値上げと叫ばないように、そして競争の公平性を確保するために発送電分離を行ったのでは?」と。まったくその指摘通りだ。

値上げ申請には厳しい査定がこれまでも行われてきた。また大手電力会社の発電と送電は別会社化されたが、結局、両社は現在も資本関係が維持されているから、なんとなくグループ化して見え、実際のところ本社のスタッフが異動するなど、その関係性は強い。これも外から見えると分離どころか密に連携しているのではと思ってしまう。

電力自由化でより安い会社を選べるはずが…

さて、ここでまた疑問が浮かぶ。「消費者は電力自由化で電力会社も選べるし、安い電気も使えたはずだ」と。

そもそも自前の電力会社を持たない電力小売業者は、大手電力会社の余剰電力を安く買い、消費者に届ける。また、送電会社と契約を結び、自前の再エネ電力を電力会社に買い取ってもらう。あるいはインターネットやガスなどのサービスと組み合わせ、電力の値段を下げるなどのサービスで新電力として電気事業を進めていくはずだった。

確かにうまくいった会社もある。しかし、その多くは、2016年にはじまった、電力全面自由化によって消費者を含めて翻弄ほんろうされていく。

電力会社は、営利企業なので自由に値上げしてもいいと思うのだが、値上げするには、国の認可が必要となる。つまり規制料金制度が、自由化前と同じく残存してしまっているのだ。

結局、新規参入した小売電気事業者はどこも青息吐息。結局、高い電気代を消費者に転嫁するしかない。大手電力よりも、電気が安いと思って契約した工場や店も、逆に大手電力よりも値上がりした電気を買い続けなければならない。その高い電気代は、る商品やサービスに値上げ分として上乗せされ、物価上昇の要因を生み出す。