6000人ものIT要員が医療資源を振り分けていた

予約・実施・データ等はNHS(国民医療サービス)が一元管理し、筆者もネットで予約をし、接種を受けた。英国から半年遅れでワクチン接種を開始した日本政府が、ワクチンの調達だけやり、あとは自治体や職域に丸投げして、紙のクーポンを手にした人々を右往左往させたのとは対照的である。

英国では単に行政手続きをデジタル化するだけでなく、ITとデータサイエンスをフル活用し、行政サービスの効率化と効果を高めようとしている。そのため各種組織は大量のIT要員をそろえている。

例えばNHSには「NHSデジタル」(本部・西ヨークシャー州リーズ市)という約6000人が働く情報・IT部門があり、そこがコロナ禍の渦中に力を発揮した。すなわち同部門が、患者との最初の窓口になるGP(家庭医)から患者個々人の情報を吸い上げ、多数のデータサイエンティストがそれを基に、地域ごとの将来のコロナ患者数の予測などを行い、経営陣がどの病院のどの部門を閉鎖し、どの設備と医療スタッフをコロナ病床やICUに振り向けるか、あるいは逆にどのコロナ病床を元の部門に戻すかといった決定をしていた。

ワクチン接種
写真=iStock.com/recep-bg
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窓口が消えたせいでブチ切れそうになることも…

的確で詳細な予測と指示によって、ごく短期間で必要な病床と医療スタッフの確保を実行したのである。それによってピーク時には一日の感染者数が27万人強で、2倍近い人口の日本とほぼ同じだったにもかかわらず、日本のように医療崩壊の危機は起きなかった。

ただし、行政のデジタル化はいいことばかりではない。筆者が英国に赴任した35年前は、社会保障関係の役所をはじめ、いろいろな役所の事務所があちらこちらにあり、物理的な窓口も利用できたが、今はすべてつぶされた。

役所の担当者と話す必要があるときは、電話をかけるしかないが、職員数が減らされているので、税務署の場合、最低でも15分くらい待たされる。それでもつながればラッキーで、「今は誰もアベイラブルではありません。グッバーイ」という自動音声の後、一方的に電話が切れてしまうこともあるので、こちらはブチ切れそうになる。

(最近何となく分かったのだが、最初に「お話のあと、職員の対応ぶりについて評価をしていただけますか?」と自動音声で訊かれ、イエス・ノーで答えるようになっているが、イエスを選択すると多少優先的につながるようだ。)