「AIへの学習を禁止」という意思表明は意味がない

mimicというサービスは、特定の描き手のイラストから描き手の個性・画風をAIに学習させて、その描き手の描き方が反映されたイラストメーカーを自動作成できるというものです。このmimicのベータ版がリリースされた際には、少なくないイラストレーターたちが、自身のイラストを勝手にAI学習に用いられて自身の画風と似たイラストを生成されないよう、自身のイラストをAI学習に用いることを禁止する旨の意思表明をする事態になりました。

人工知能のイメージ
写真=iStock.com/DamienGeso
※写真はイメージです

しかし、このような意思表明を一方的に行っただけでは、AI学習に著作権法30条の4が適用されることには変わりはありません。ただし、「AI学習に用いてはいけない旨の利用規約に同意したうえでないとイラストを閲覧できない」というようにした場合であれば、利用規約に同意してイラストを閲覧した者との関係では、イラストをAI学習に用いれば利用規約違反の問題になります。

この場合も、利用規約に同意していない第三者が、利用規約に同意してイラストを閲覧した者などから提供されたイラストをAI学習に用いても、その第三者自身が利用規約に同意していない以上は、その第三者との関係では利用規約違反の問題は生じません。

なお、mimicについては、もともと描き手がイラストを描く際の参考資料にすることを目的としているサービスであるため、描き手が安心してサービスを利用できるよう、著作権者以外の者がイラストを学習させることを禁止し、これを防止するための課題を解決したうえでの正式リリースを目指しているようです。

適法かどうかとは別にモラルの問題もある

AIに学習させることが適法かどうかとは別に、モラルの問題もあります。

NovelAI Diffusionという画像自動生成AIは、二次元イラストの生成に強いAIとして注目を集めましたが、実は、特定の無断転載サイトにアップロードされているイラストをデータセットとしてAIに学習させていることが判明しました。このような違法に複製された著作物を学習させる場合も、学習が日本国内で行われる限りは、著作権法第30条の4の適用があります。しかし、そのような学習を経たAIを使うことを「よし」とするかは、利用者個々人の倫理観の問題でしょう。

AIイラストに著作権があるかは判断が分かれる

著作権は、著作物を創作した著作者が享有する権利の総称ですが、現在の法制度の下では、権利の主体になりえるのは生身の人間だけです。したがって、少なくともAIが著作者になることはなく、AIに描かせたイラストに著作権が生じるのは、生身の人間が創作した(=思想または感情を創作的に表現した)ものだと言える場合に限られます。

イラストが生成されるまでの過程に関与している生身の人間は、通常、①学習元のイラストの著作者、②AIの作成者、③AIに指示を出してイラストを描かせた者です。この中で、生成されたイラストを創作した者と言える可能性があるのは、③に限られると考えられます。ただし、生成されたイラストに著作権が生じるか否かについては、いずれの見解もあるところです。