2012年7月18日(水)

ルイ・ヴィトンと無印良品、レトルトカレーの共通点

PRESIDENT 2012年7月30日号

早稲田大学ビジネススクール 教授 長沢伸也 構成=三田村蕗子
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    長沢 伸也 ながさわ・しんや
    早稲田大学ビジネススクール 教授

    専門はラグジュアリーブランディング論、感性工学、環境ビジネス。『ラグジュアリー戦略』(J・N. カプフェレ他著、長沢伸也訳)、『それでも強いルイ・ヴィトンの秘密』『シャネルの戦略』『地場・伝統産業のプレミアムブランド戦略』『京友禅 千總』『老舗ブランド「虎屋」の伝統と革新』など著書多数。

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日本企業が海外で勝つための唯一の方法は、高くても売れる「ラグジュアリー戦略」を取ること。豊富なケーススタディを通して解説する。

日本の企業が生き残るための唯一の戦略

海外に進出する日本企業が目指すべき道筋は何か。結論から言えば、日本らしさを生かして「高くても売れる」ブランドを実現するラグジュアリー戦略しかない。

といっても、必ずしもラグジュアリーブランドである必要はない。製品がラグジュアリーであることとラグジュアリー戦略とは必ずしも一致しない。仮にラグジュアリーではなくても、ラグジュアリー戦略を採用することは十分に可能である。

だが、日本の現実に目を向けると、その反対路線を邁進していると言わざるをえない。価格を下げることしか頭になく、価値づくりから背を向け、長くコストダウンの消耗戦から抜け出せないでいる。工場を中国の沿岸部に移転し、人件費が上がると内陸奥地にシフトして、そこでまたコストが上がると今度はベトナム、カンボジアへと目を向ける。スリランカを経てアフリカまで行ったらもうその先はないのに、いったいどこまで行く気なのか。

価値を向上させることは難しい。だが、価値創造を怠りコストダウンを図ると、いつかコストがすべてとなり、せっかくの価値も目減りする。つまり、ブランドも企業も疲弊するということだ。メリットは何もない。

こうした消耗戦を繰り広げていると、いずれ日本企業は表舞台から追いやられてしまうだろう。私は昨年、タタ財閥グループ傘下のインド企業の品質管理を審査したが、そこでは、「見習うべきは中国のコスト、日本の品質」を理念に掲げ、日本企業でこれだけ実直に品質管理をやっている企業が果たしてあるかと思えるほど懸命に理念を実践に移していた。この光景を目にしたとき、私はただただ感心し、そして恐ろしくなったものだ。いまはまだ途上でも、この先5年、10年たって、「中国のコストと日本の品質」を兼ね備えたインド企業が台頭したら、日本企業がどうなるか。それは火を見るよりも明らかだ。

日本企業がいまだに「安い製品をたくさん作る」ことに明け暮れ、利益率の低い商売にどっぷりと浸かっているのは、一つには売り上げをつくらなければならないという売り上げ至上主義にとらわれているからだろう。さらには、高い製品を少数売るという経験がないため、従来型の商売から足を洗ってうまくいく自信がない。成功できるイメージを描けない。これが大きい。

腕時計を例に挙げよう。100円ショップで販売する時計を1万個作るのと、100万円の時計を作って一人に売るのとでは売り上げは同じだ。しかし、100万円の時計を売った経験がない人は、どうしても100円の時計を1万個売る方向に走ろうとする。

100万円の時計を売っていくには、既存の顧客と異なる顧客を対象にしなければならない。つまりイノベーションだ。だが、イノベーションとは、昨日までの顧客を失うことを意味する。従来のビジネスモデルを壊し、そのときの顧客を思い切って切り離し、新たな客を掘り起こさなければならない。それだけの潔い決断ができないのだ。

しかし、どう考えても日本企業は100万円を一人に売るラグジュアリー戦略しか生きる道がないはずだ。日本で製品を作ればコストは高くならざるをえない。「コストを抑えられるから中国に製造拠点を移す」というのは一つの生き方には違いないが、この消耗戦に耐えうるのは業界1位や2位の企業であり、3位以下には通用しない。高くても売れる商品、高価でも熱烈なファンがいる商品を作り、販売する仕組みを築き上げていく以外、活路はないのである。

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