「有給で皆勤手当不支給」は適法か

(3)有給休暇を取得したことを理由に不利益に取り扱ったことが適法と判断された事例――沼津交通事件(最判平成5年6月25日民集47巻6号4585頁)

被告となったタクシー会社は、労働組合との労働協約において、勤務予定表どおりに勤務した場合に皆勤手当(1カ月3100円または4100円)の皆勤手当を支給するが、有給休暇を取得した場合には皆勤手当の全部又は一部を支給しない旨を定めました。この規定の有効性が争われた事件です。

小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)
小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)

有給休暇を取得したことで皆勤手当が減額された運転手(原告)は、こうした取扱いは労基法に反するなどとして、減額あるいは支給されなかった皆勤手当と遅延損害金の支払いを求めました。

第一審は、有給休暇を取得した日を欠勤扱いすることは有給休暇取得を抑制し、公序に反するとして請求を認容しました。しかし、控訴審と最高裁は、 以下のような理由で原告の請求をしりぞけました。

まず、本件のような有給休暇取得を理由とする不利益取扱いの効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱などの諸般の事情を総合して判断する必要があるとしました。

そして、その結果、有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいてはその権利を保障した法律の趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り、公序に反して無効になるとの基準を示しました。

その上で、今回の会社側の措置は、有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではなく、また、控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどから、有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきであり、公序に反する無効なものとまではいえないと判断されました。

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