鉄則を破り続けた日銀

ましてや、雨宮副総裁が述べたことは「日銀財務が健全ならば」という大前提が守られた上での話だ。

私が銀行員時代(2000年3月末まで)、日銀は「通貨の安定のために価格が下落して債務超過になるような金融商品を保有してはいけない」が鉄則だった。

だから約束手形や国債も3カ月物までしか保有していなかった。株や長期国債など、評価損が発生するものなどを保有するのは論外だったのだ(長期国債は短期国債と違って同じ金利の上昇でも値崩れが格段に大きいので評価損発生のリスクが大きい)。

したがって債務超過などになるわけがなく、日銀は信頼に足る金融政策の遂行のみに注意していればよかった。

しかし今は大前提が崩れている。

サマーズ元米国財務長官&元ハーバード大学学長が「インフレ(=通貨価値の棄損)にするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばよい」と発言したが、債務超過とは民間でいえば破産状況だ。中央銀行が信用を失う最たるもののはずだ。

たとえば、他国の中央銀行が巨大な評価損を抱えているときに貴方はその中央銀行発行の通貨を保有していたいと思うだろうか? 私なら絶対に嫌だ。いつ世界中の人がその中央銀行を見限り、その発行する通貨の価値が無くなってしまうかわからないからだ。

暗号資産のチャートを見る人
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インフレも、円安を止められないワケ

現在日銀は、新発10年債に対し0.25%の指値オペを行うことにより、必死で長期金利の急騰を抑えている。政府が物価対策に躍起なのに、本来、物価対策の最前線に立つべき日銀がそっぽを向いているのは、あまりに奇異な状況だ。

財務省財務官やアジア開発銀行の総裁をされた黒田総裁は、世界は、時価会計で信用分析をするということを熟知されているのだろう。

長期金利が上昇すれば、巨額の債務超過で、日銀の信用、ひいては円の信用が失墜してしまうことを充分ご存じのはずだ。だから金利を引き上げるべき時期でも引き上げられないのだと私は思っている。

私が参議院議員時代に質問した時、若田部昌澄副総裁は「たとえ日銀が債務超過になっても日銀は、構造上、通貨発行益が出る仕組みになっているから、債務超過は長い間、続かない」と答弁された。嘘ツケだ。

日銀の純利益(ほとんどが通貨発行益)は今年度上期こそ為替の益により3兆円弱もの利益が上がったようだが、普段は毎年1兆円から1兆5000億円程度にすぎない。

FRB(米連邦準備制度理事会)のように毎年十数兆円の巨額の利子収入があるわけではない。2%の金利上昇で52.7兆円もの評価損が出るのなら、損の解消に何年かかることやら。

現在、毎年1兆円から1兆5000億円程度は上がっている日銀の純利益だが、今後物価上昇が進み、日銀が短期金利を引き上げざるを得なくなると損の垂れ流し状態になる。それも巨額の、だ。2%の金利上昇で52.7兆円もの評価損を純利益で埋めるどころの話では当然ない。