日本人は全体としては優れているのですが、大局観を持ち、「身命を賭しても」という覚悟の感じられる真のエリートがいません。これは国民にとって大変不幸なことです。国会事故調での聴取を通じて、私は原発のみならず、日本の中枢そのものが「メルトダウン」していると痛感しました。

大企業や官僚たちの不祥事も根っこは同じ

これは何も、福島第一原子力発電所事故の関係者に限った話ではありません。政治、行政、金融機関、大企業、大学、どこにいるエリートも同様です。読者のみなさんもさんざん目にしてきたことと思いますが、その後もたびたび起こる大企業や官僚たちの不祥事、その原因の根っこは同じところにあります。

大半の日本人は、10代の終わりに受験勉強をしてできるだけ偏差値の高い大学に入り、その後、大学卒業と同時に「新卒一括採用」でいったん役所や企業に属したら、そのグループからほぼ動かずにキャリアを積み上げることが当たり前だと考えています。

黒川清『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(毎日新聞出版)
黒川清『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(毎日新聞出版)

そうしたタテ社会から生まれるのは、年功序列や終身雇用といった単線路線を歩む日本型エリートたちです。日本の社会にはそんな「単線路線のエリート」が多く、彼らが日本のあらゆる組織において「リーダー」になっているのが問題なのです。

経済産業省に入省した東大卒業生は、省内もしくは外局組織に所属しながら、いずれは経産省に戻り、入省年次によって昇進していくことでしょう。近年は省庁間の人事交流も多少はあるようですが、「本籍」は変わりません。

すると、どういうことが起きるか。原発推進という経済産業省のつくる「国策」に反対するような発言はしなくなりますし、自分の意見など持たなくなります。そうして、正しいチェック機能が働かず、日本の原発は安全対策が不十分なまま3・11を迎えてしまいました。

日本社会で出世するのは世界の二流、三流の人材

企業も同様です。異業種への転職はあり得ますが、例えば、みずほ銀行から三菱UFJ銀行に転職する、あるいは東芝から日立製作所に移るなど、同業間での転職はほとんどありません。そのような国がOECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国に存在するでしょうか。なぜ、日本はそうなのか、読者のみなさんもぜひ考えてみてください。

大学の世界も同様で、広い世界を知らない「四行教授」が、弟子たちから「先生、先生」と呼ばれて幅を利かせています。日本では、多くの組織がこのような状態に置かれています。単線路線において出世するには、前例を踏襲して組織の利益を守るに限ります。

また、「おかしいな」と感じても、異論を唱えれば組織内で干されたり左遷されたりするので、黙るようになります。言うべきことは言わず、言われたことしかやらないようにする。上司の顔色をうかがい「忖度」をする。そんな人たちが偉くなっていく――つまり、日本社会で出世するのは世界の二流、三流の人材ということになります。

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