ビデオ通話に写っていたのはナイジェリアの男性だった

私も負けじと、

「ハニー! あなたを心の底から愛している。あなたに狂いそうだ」

などと返信し、詐欺師との「愛」を育み続けた。

やがて「荷物を日本に搬送したい」と搬送料の支払いも要求されたが、お茶を濁してメッセージを続け、知りあってから半年後に身元を明かした。ロマンス詐欺の取材をしているジャーナリストであること、最初から詐欺師だとわかっていたことなどを伝えると、相手も「仮面」を剝がして本性を現したのだ。

ビデオ通話で会話を始めると、スクリーンの対面には黒人の若い男性が写っていた。西アフリカ、ナイジェリアの最大都市ラゴスにいると白状し、詐欺師であると認めた上で、

「申し訳なかった」

と詫びてきた。

ビデオ通話に応じた詐欺師
写真=筆者提供
ビデオ通話に応じた詐欺師

ナイジェリア人がアジアで集団摘発されるケースも続出

ナイジェリアは、森川被告が潜伏していたガーナの東に位置する同じ西アフリカ域内だ。

1980年代、「ナイジェリアからの手紙」と呼ばれる詐欺が横行していた。手口は、政府高官を装って手紙やFAXを海外の企業に送り、取引を持ちかけて金を騙し取るものだ。ナイジェリア刑法419条に抵触することから、「419詐欺事件」とも呼ばれていた。

当初は歴史的に関係の深い欧米諸国が対象だったが、90年代に入り、東欧やアジア、中南米へと標的を広げた。日本人の被害は1999年に起きている。神奈川県の中古車輸出業の男性が「コンゴの軍人」と名乗る者から手紙を受け取り、「内戦の混乱で引き出した2000万ドルを移したい。口座を貸してくれれば謝礼を渡す」と持ち掛けられた。その後、打ち合わせのために南アフリカに渡って誘拐され、数百万円を奪われた。

こうした手口は、ネット社会に移行したことで、手紙がメールに変わり、近年はSNSやマッチングアプリを使ったロマンス詐欺という新たな手口が生まれた。西アフリカの中でも特に、ナイジェリアとガーナは英語が公用語であるため、犯行グループの潜伏先になっているようだ。

標的にされたのは同じ英語圏の欧米だけでなく、日本も対象になった。いずれも先進国だからだろう。前出の国民生活センターに初めて相談が寄せられたのは今から10年ほど前で、被害が増え始めたのはここ4〜5年だ。

犯行グループにとってはスマホやパソコンさえあればどこでも着手が可能である。それゆえ彼らの活動範囲も広がっており、最近では、ナイジェリア人がフィリピンやタイ、マレーシアなどのアジア域内で集団摘発されるケースも続出している。