独身だけでなく、既婚者も被害に遭っている

国民生活センターの越境消費者センター(CCJ)によると、ロマンス詐欺に関連した相談件数は2021年に192件で、2年前の5件から急増した。これはコロナ禍によって出会いの場が対面からネットへ移行したためだ。うち男性が6割を占める。年齢層も20代〜60代まで(女性は50代まで)と、中高年層の女性に集中していた以前に比べると、幅広く、老若男女を問わなくなっている。これはマッチングアプリの台頭が1つの要因とみられる。

【図表1】国民生活センター越境消費者センターにおける、出会い系サイトやマッチングアプリ等に関する年度別相談件数
国民生活センターHP資料より作成

ある人は貯金を切り崩し、親族にも借金をし、挙げ句は消費者金融にも手を出して根こそぎ搾り取られ、自己破産してしまう。特に最近は20代の若者までもが巻き込まれるケースが増えており、マッチングアプリで知り合った外国人の相手に仮想通貨への取引を勧誘され、数百万円から1000万円以上を騙し取られている。また、必ずしも独身というわけではなく、既婚者でも被害に遭っている。

「まるで天使が地球に舞い降りてきたみたい!」

その手口はこんな形で始まる。

ある日突然、身に覚えのない欧米人、しかも端正な顔立ちをしたプロフィール写真の異性から「Hello!」、「こんにちは!」などとメッセージが届く。承認すると、軽い自己紹介をしてLINEへ誘導される。メッセージは朝の「おはよう」から始まり、「今日は仕事?」「お昼は何食べた?」「お風呂は?」「ペットは元気?」など日常の些細なことから仕事の話、生い立ちや家族構成にまで広がり、「おやすみ」で1日が終了する。そしてまた翌朝も欠かさずメッセージが届くのだ。

親しくなると、呼び方が「ハニー!」に進化し、2人の距離は徐々に縮まる。やがてはこうしたメッセージが飛び出してくるのだ。

「おはよう! 笑顔に包まれた1日になりますように!」
「今日のあなたはとても美しい。まるで天使が地球に舞い降りてきたみたいだ!」
「あなたはとても強く、そして勇敢だ。外見だけでなく、内面までもが美しい。そんなあなたは私の心の中に常に存在している」

これはある被害者が実際に受け取ったメッセージである。

取材に応じてくれた女性被害者
写真=筆者提供
取材に応じてくれた女性被害者

日本人同士なら珍しい、愛情あふれる言葉や表現の数々。日常のやり取りの中でそれらが巧みに織り混ぜられ、その気になったところで本題を突きつけられる。

「日本で一緒に暮らそう。そのために日本に荷物を送りたいので、搬送料を支払ってほしい。日本で会った時に返すから」

振込先の銀行口座を伝えられ、その言葉を信じて振り込んでしまう。今度は荷物搬送時にトラブルが発生し、「税関で手数料が必要になった」などと追加を要求される。それを振り込むと、また別のトラブルが……と、繰り返されていく。