「0円仕入れ」ができても儲かるわけではない

そう思っていたら、平山直哉(27)=仮名が、エクセルで作った一覧表を私に見せながら、こう言った。

「たいして儲かりませんよ」

平山は、会社員の片手間に《0円仕入れ》をやっている。彼が作ったエクセルの表には、これまでフェイクレビューで手に入れた27個の商品名と値段、レビューを書いた日付、メルカリでの販売額、送料などがびっしりと打ち込んであった。

27商品のアマゾンでの販売価格の合計は7万4000円強。これを0円で“仕入れた”わけだ。一番安い商品は、スマホのGalaxy S9タイプに貼る保護フィルムで870円。一番高いのが、ブルートゥースイヤホンで5488円。これらの商品をメルカリで売って、手数料や送料を引いた後で手元に残ったのは、1万6000円強。まだメルカリに出品中の商品も数点あるが、こんな低調な収支なのだ。

「まず送料と発送の手間がかかりますね。僕は、平日は会社員として働いていますので、発送作業は家に帰ってからか、土日にやることになるんですけれど、商品に合わせて梱包して、郵便局に持っていって小包で送るんです。送料で一番高かったのは、腹筋ローラーの900円でした。

それに、メルカリでは値下げ交渉というのがあって、購入希望者から、値段を下げてくれれば買う、といわれることが多いんです。アマゾンで5000円以上したブルートゥースのイヤホンは、まったく同じ商品が複数出品されていたので、結局は2円で売ることになりました。送料が340円かかっているので、338円の赤字でした。馬鹿らしい話です」(平山)

平山は、1カ月やっただけでやる気が失せた、という。

一番おいしい思いをしているのは、依頼する側の出品者

「手間と時間を考えたら、とても割に合わないと思いました。手元に残る金額が1桁違うなら、やりつづけるかもしれませんが、こんな金額ではとてもやってられない、というのが本音ですね」

横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』
横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』

実態はそんなものだろうな、と私は納得した。

まず、アマゾンの商品にレビューを書いて、返金してもらうまでのプロセスが長い。時間にして、最短でも10日はかかる。その先に、メルカリやヤフオクに出品し、売れれば発送作業が待っている。割に合わないとは、まさにその通り。それでもフェイスブックのタイムラインを見ていて、フェイクレビューの依頼が一向に減る気配がないのは、それが出品者にとっては、安価で、かつ効果的な商品の宣伝方法だからだ。日本でのテレビCMやネット広告に支払うほどの資金は到底ない。

たとえフェイクではあれ、人海戦術で自社の商品についた高評価のレビューを積み上げていくことは、商品の売上げの増加に大きく寄与するのだ。商品を無料で渡すだけで、その商品に5つ星のレビューがつくのなら、こんなに安上がりな話はない。ここで一番おいしい思いをしているのは、フェイクレビューを依頼する出品者なのだ。

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