どんなに物価が上昇しても、賃金が下がれば年金も下がる

国は、この「マクロ経済スライド」で徐々に年金を実質的に目減りさせていって、年金財政を立て直すつもりでした。

ところが、予想外だったのは、デフレが長引いて物価が上がらなかったために、マクロ経済スライド自体が発動されないという状況が続いたことです。

マクロ経済スライドは、2004年以来、3度しか発動されていません。消費税が引き上げられた翌年の2015年と物価が上昇した2019年、2020年です。

そのため、実質的な年金カットが進まず、2021年に、さらに新しいルールに沿って年金を支給し始めました。

それは、賃金と物価の両方から年金の支給額を決めるのではなく、物価がどんなに上がっていても、賃金が下がっていたら、年金も賃金に合わせて支給額を下げるというものです。

そのため、2021年度の年金額は、物価が下がっていないのに、賃金が0.1%下がったので、賃金の値下がりに合わせて年金も0.1%下がりました。

グラフを見ている男性
写真=iStock.com/Rafmaster
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2022年の年金給付額はさらに下落する可能性

困るのは、2022年の「年金給付額」です。

2021年から、原油高や世界的な気候変動などの影響で、原油価格や食料品の価格が高騰し始めました。

しかも、日本は多くのモノを輸入しているので、円安傾向になったために、高い輸入価格がさらに高くなり、多くの人が物価高を実感せざるを得なくなりました。さらに2022年にはウクライナ危機で一段と高くなりそう。

以前は、物価が上がれば、物価の上昇ぶんほどではないにしても、年金も上がることになっていました。少なくとも、これだけ物価が上がっているのに、年金給付額が下がるということはなかったのです。

ところが、前述した新しく始まったルールに従うと、どんなに物価が上昇していても、賃金が下がれば年金給付額も下がることになります。実際、コロナ禍で財政状況が悪化する企業が増え、賃金が下がりました。

その影響で、2022年度の年金給付額は、なんと0.4%も下がりました。

こうして、年金は破綻しませんが、もらえる年金は、実質的には目減りしていくことが避けられなくなっています。