1つ目はビジネスマンの意識の変化である。高度経済成長を支えてきた滅私奉公型の仕事人間やモーレツ社員は今や影を潜め、「仕事も大切だが、自分のこと、家族のことも大切にしたい」と考える人が若い世代を中心に増えている。彼らは体調や気分が悪いと、すぐに仕事を休んで医療機関を受診する傾向が強い、そこでうつ病も見つかりやすくなり、これまで潜在していた軽症のうつ病が顕在化するようになったのではないか。

2つ目は職場環境の変化である。高度経済成長から安定経済成長、そしてバブル経済の崩壊へ、という変化とともに進展した職場環境や職場倫理の変質が「現代型うつ病」の出現と連動しているのである。それは、端的にこの30~40年に広まった企業の年功序列・終身雇用制の見直し、成果主義の導入によって起きた変化である。

成果主義のもとでビジネスマンは、生産性・効率性を向上させながら、一定の期間内に成果を上げることを厳しく求められるようになった。その結果、ビジネスマンは絶えず時間に追いまくられ、徐々に生活リズムを乱され、精神的に追いつめられるようになったのだ。

このような「現代型うつ病」の成因からも、生活リズムの回復が治療の根幹であることは明らかである。入眠と起床、3度の食事、それにともなうさまざまな生活習慣は、1日を1つのストーリーとして構成している。そんな規則正しい生活習慣を取り戻すのが治療の基本となる。

さらには、四季に応じてゆっくりと生活リズムを変化させていくことも重要で、正月の行事、3月の雛祭り、4月のお花見などの文化的営みを通して季節の変化を肌で感じ取ることも、生活リズムの回復に役立つ。

最後に、予防という観点からは、細々とした心理的な注意事項よりもまず、十分な睡眠をとることが重要であることを強調したい。睡眠こそが精神状態をリセットして、生活リズムを正常に戻す最善策なのだ。

ただし、休日の寝だめは生活リズムを狂わせるので逆効果。毎日の睡眠時間をできるだけコンスタントに確保するのがコツである。就寝前に入浴する、寝室を暗くするなど、安眠のための工夫もすると効果が上がるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=野澤正毅)