いやなことがあれば、それが直接、不快感情を起こさせる、つまり「出来事→感情」と長らく信じられてきた。だが認知療法の創始者ベック(Beck,A.T.)によれば、いやな出来事そのものが不快感情を起こさせるのではなく、その出来事の認知――その出来事の受け取り方――が不快感情を起こさせる。したがって不快感情を解消するには、いやな出来事に対する認知を変えればよい。3つのよいことを書いたり、介護中で嬉しかったことを書くのは、日常生活や介護に対する認知を変えるためである。

人を変えるのは、three good thingsやハッピーノートだけではない。たまたま読んだ本の一行が人生を変えることもあるし、上司のひとことが部下を一変させることもある。

ある地方都市で、入社5年目でBMWの新車を年間122台売って日本一になったセールスマンがいた(朝日新聞の「凄腕つとめにん」)。その彼も入社1年目にはたった7台しか売れなかった。「田舎では新車は売れない。会社をやめよう」と思ったそのとき、支店長が言った。「ここで一花咲かせてみろ。今やめたらどこに行っても同じことの繰り返しだぞ!」。このひとことが彼の迷いを吹き飛ばした。平凡なセールスマンが凄腕セールスマンに変身した一瞬であった。人は成長するには時間がかかる。だが変化するには一瞬で足りるのである。

今日のようにストレスの多い社会では、「自分の存在が無意味で、生きているのがつらい」と感じ、死んでしまいたくなることもあるだろう。このようなときにこそ、three good thingsやハッピーノートを自分で実行してみてはいかがであろうか。お金も、特別な道具も、相手もいらない。ただ就寝前に、その日にあった「よいこと」や「嬉しかったこと」を書きとめ、それを一週間続けさえすればよい。あなたは自分が無意味な存在どころか、大いに意味がある存在だったことに気づき、あらたな悦びと生きる意欲を見出すに違いない。

※参考文献
(1)Seligman,M.E.P.,Steen,T.A.,Park,N.,&Peterson,C.(2005).Positive psychologyprogress:Empiric a lvalidation of interventions.American Psychologists,60,p410-421.
(2)渡辺俊之(2009).「介護者における日記効果 調査結果」NHKより提供された資料による。
(3)Beck,A.T.,& Others(1979)Cognitivetherapy of depression. New York:Guildford.