知性は母から、情動は父から受け継ぐ

【内田】よかった、聞きたい答えが聞けて(笑)。でも、同時にちょっとあまのじゃくな言い方をしてしまうと、私はさっきも言ったように父とほとんど一緒の時間を過ごしてないんだけれども、ふと会った時に、怖いぐらい似ている瞬間を感じたんですよね。その部分は遺伝でつながっちゃっているところなんでしょうか。

エッセイストの内田也哉子さん
写真提供=文藝春秋
エッセイストの内田也哉子さん

【中野】もちろん、つながっています。お父さんから主に受け継ぐ部分と、お母さんから主に受け継ぐ部分というのは、遺伝的にある程度偏りがあるんですよ。知性はお母さん。

【内田】えっ。子どものほうは娘でも息子でも関係なく?

【中野】そうそう。どうもホルモンの影響で割合的には変わったりするようなんですけど、知性を司る大脳新皮質は主に母側と考えられています。

【内田】知性はお母さん。そして?

【中野】内臓などの、他の身体の部分はお父さん。

【内田】えっ、そうなの? え~~っ、複雑な気持ち(笑)。

【中野】情動の部分もそうかもしれない。情動脳の部分はオス側の遺伝子が発現しているらしいので。

【内田】そうなんですね……。

DNAを介した遺伝は、ここ数十年の間に生まれたごく新しい考え方

【中野】でも、也哉子さんはそんなお父様のように激しいものをお持ちの人かなと、ちょっと今、疑問には思っているのですが。

内田也哉子・中野信子『なんで家族を続けるの?』(文春新書)
内田也哉子・中野信子『なんで家族を続けるの?』(文春新書)

【内田】実は秘めているんです(笑)。

【中野】あ~、秘めているんですか。コントロールしているんですね。

【内田】そうなんです。ほとんど会わないし、嫌だなと思うことのほうが多かった父ですけど、私は小さいとき、ふと「お父さんは何をしているかな」とかって母に聞いたんですね。そうすると母が「あんた、やっぱり気になるのね。親子なのね」と言う場面があったんです。母を見ると、父のことをぜんぜん思い出してないなというふうに見える。それは、夫婦は血縁じゃないからだと思っていたんです。

だから、母とケンカすると、「お母さんは血縁じゃないから、お父さんが逮捕されても何かバカなことをしてもデーンとしていられるけど、私は自分がDNAを受け継いだ父だって思えば思うほど、罪悪感があるんだから」というふうなことを言ったものでした。でも、それって自分の脳でそう言い聞かせちゃっているということもありますよね。

【中野】刷り込みはあると思います。自分という存在が生物学的な、例えば遺伝子の所産であるという意識は、先進国の人ならばおそらくほとんどの人が持っていますよね。

けれども、いかにも当たり前であるかのような、そういう感覚のもとになっている、DNAを介した遺伝というのは、ここ数十年の間に生まれたごく新しい考え方なんですよね。

これを、「実は普通じゃないよ」と思うことも大事なことだと思うんです。別に科学がすべてを支配しているわけではないかもしれないと。科学的に見ればこうだけれども、違う見方もあるよということを、私たちは知っておいたほうがいいんじゃないかと思うんですよね。

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