オフィスビルの大暴落に備えよ
都心の高級マンションは安泰だが、心配なのはオフィスビルである。
電通が港区の本社ビルの売却を検討していると報じられた。テレワークの推進で社員の出社率が2割程度に減少して余剰スペースが生じたことなどが原因とも言われている。ほかにもリクルート、日本通運などの所有するビルの売却・売却検討が報道されている。
仮に報道が真実で本社ビルを売却するとしても、ソニーのようにリースバック(売却後にリース契約して賃貸料を払ってそのまま住み続けること)して本社機能は維持するだろう。ただし、使うスペースは半分以下になると思う。
都心の自社ビルを売却したり、本社を縮小する動きは今後も加速すると思う。人材派遣大手のパソナが本社機能を東京都千代田区から兵庫県淡路島に段階的に移転、横浜ゴムは本社ビルを売却して平塚製造所に移転、という発表もあった。コロナ禍の厳しい経営環境に直面して、本社機能の見直しに取り組む企業が増えているのだ。
私の知り合いで会社にフリーアドレスを導入した経営者がいる。フリーアドレスとは、社員が固定した席を持たずに、自分の好きな席を活用して効率的に働くワークスタイルのことだ。私の記憶では日本IBMの箱崎事業所が最初であったと思うが、外回りが多い営業部門で取り入れられることが多かった。しかしその後は、働き方改革を推進する施策の1つとして多様なセクションで導入が進んでいた。これをさらに加速したのが新型コロナである。週に1~2日の出社率なら、席を固定するほうが非効率。フリーアドレスにすれば、オフィススペースは半分以下で済む。
数量的に検討してオフィススペースが今ほど必要ないという結論に達すれば、自社ビルを売却して手元資金を増やしたうえでリースバックして本社機能をコンパクトに維持する場合もあるだろうし、もっと賃料の安い物件に本社機能を移転する会社も出てくる。
私の感覚では、坪あたり賃料が2万円を超えるようなオフィスビルはもはや高すぎる。賃料が人件費の50%を超えるくらいなら安いところに転居して手当を充実したほうがいい、と考える経営者も増えているのだろう。狭い土地に建てられたペンシルビルの賃料はすでに坪1万円台にまで下落している。賃料が高い最新鋭の大型オフィスビルは借り手が減っていくし、借りる必要面積も縮小していくだろう。
大手デベロッパーが狂ったように都心にオフィスビルを建築しているのは、こうした状況が見えていなかったからだろう。テレワークが常態化して賃料やオフィススペースを半分以下にしたいという動きがまとまってきたときには、金融危機の再来が危惧される。今は都心の空室率が5%に迫り相場が下落し始めているが、10%を超えたら90年代の半ばのような不動産の暴落が起こると思われるので、鍵となる数字を追跡しておくことを推奨する。