東京都心部はマンハッタン化する

一方、「転入超過」が続いているとはいえ、20年は転入超過数が過去最少にとどまった東京。転入組の主流は依然30歳以下の若年層で、中高年層の転入は激減している。一頃、埼玉、神奈川、千葉など東京近郊に家を買ったビジネスパーソンが、定年後に都内のマンションに移り住む都心回帰パターンが増えた。子どもが独立して広くなった家を持て余すより、狭くてもいいから都心のマンションで老後を便利で豊かに過ごそうというわけである。逆に通勤時間片道最大1時間20分くらいのところにできた、かつてのベッドタウンはどんどん人口が減り、寂れてあちこちでゴーストタウン化している。

しかし、コロナ禍でその流れも変わった。リスクの高い密な都心にわざわざ引っ越す中高年層は減り、東京から近県の埼玉、神奈川、千葉への転出が目立つようになった。

それでも13年の日銀金融緩和以降、上昇傾向が続いてきた都内のマンション価格が下がる様子はない。コロナ以前から新築、中古物件ともに供給量が抑え気味だったこともあって、コロナ禍の影響は一時的にあったものの、相場は高止まりしている。

特に好調なのは、依然として引退した高齢者に人気のある都心3区の小さなマンションと、何億円もするハイエンドの新築マンションである。アメリカとは桁が違うが日本でも格差は広がっていて、株高の影響で金持ちはますます金持ちになっている。金持ちからすれば2億円のマンションも10億円のマンションもさして変わらない。現金を残して死ぬのか、資産を残して死ぬのかの違いだけだ、と考える層が増えているのだろう。

ニューヨークのセントラルパークを見下ろす高級マンションは、世界中の金持ちが買うから値段が高騰するばかりだが、今や東京都心部もマンハッタン化しつつある。アジアにも得体の知れない金持ちがいて香港の超高級マンションを買い漁ったりしていたが、デモや国家安全維持法施行で香港に見切りをつけた金持ちは安全な東京都心のハイエンド物件を欲しがるのだ。

マンハッタン化する都心部の高級マンションは普通の勤め人ではとても手が出せない。必然的に中古物件や東京郊外もしくは近県の物件を求めるようになるから、そうした物件の価格もしばらくは堅調と思われる。