国際社会に浸透した「自由で開かれたインド太平洋」構想

この、「自由で開かれたインド太平洋」構想は、2016年8月に、安倍晋三首相がケニアのナイロビではじめて言及して以来、アメリカ政府はもちろんのこと、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランス、ドイツ、フランスなど、世界の主要な自由民主主義諸国が明確な支持の姿勢を示してきた。

日本政府が世界に示した外交構想として、これほどまでに国際社会で広く深く浸透した構想は明治以来なかったといってよい。さらには、CPTPPや日EU間経済連携協定(EPA)という二つのメガFTA(自由貿易協定)が、そのような「自由で開かれたインド太平洋」構想を支える重要な現実の柱となっている。自由、開放性、繁栄、法の支配といった重要な規範をこの地域に定着させる上での日本のリーダーシップを、国際社会の多くが歓迎しているのだ。

コンテナ船
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他方で、アメリカの国際社会でのプレゼンスはトランプ政権期の四年間で大きく後退し、代わりに中国の存在感が飛躍的に増している。RCEPは、この地域における中国の存在感をさらに増大させるであろう。

だとすれば、アメリカの大統領が欠席したASEAN関係首脳会議の直後の記者への対応で、RCEP署名に言及する際には、菅首相はむしろ中国への配慮を示すような印象を与える「平和で繁栄したインド太平洋」という言葉ではなく、日本外交の看板となっている「自由で開かれたインド太平洋」という言葉にこだわるべきであった。

幸いにして、その後の11月16日の定例記者会見で、加藤勝信官房長官はそのような疑念を示した記者からの質問に対し、「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた取り組みを戦略的に推進する立場は何ら変わらない」と強調した。

さらには菅首相自らも、11月20日のビデオ形式で行われたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会談の声明のなかで、「国際的なルールの下での貿易、投資の自由と連結性の強化が『自由で開かれたインド太平洋』を支える」と述べて、日本がこの「自由で開かれたインド太平洋」の促進にリーダーシップを発揮する意欲を示した。

これらの一連の政府首脳の発言で、日本がこの構想を放棄したわけではなく、「自由」と「開放性」を重視してこの地域での指導力を発揮する姿勢があらためて明らかとなったことは、日本外交にとってよいことである。