「今年の学校の夏休みゼロ」で2020年のカリキュラムは消化可能

2)今年9月の新学期スタートはなくなった

現在、「9月を入学・新学期スタートにしてほしい」という声があり、賛否を巻き起こしている(※) 。安倍晋三首相も5月14日、「(9月入学は)有力な選択肢のひとつだろうと思う。前広に検討していきたい」と述べている。しかし、その一方、前出の文科省の通知により「今年9月の新学期スタートはなくなった」といった教育の専門家らの意見も多く見られる。筆者も同じ考えだ。

※編集部註:文部科学省は5月15日、「9月入学制を実施し、学習期間を5カ月間延長した」場合、小・中・高校生がいる家庭の追加負担は計約2兆5000億円になるとの試算を明らかにした。

今回の文科省の通知によって、学校が時間割表を配り、家庭でそれに基づいて学習するという形を取るということは、それによって2020年度のカリキュラムを消化したことにして、終わらせたことにする予定である、ということだろう。

事実、4月10日には文科省は「休校中の児童生徒が家庭学習を通じて学力を身につけたと確認できる場合、学校再開後に同じ内容を授業などで行わなくてもよい」とする特例の通知を出している。

また、兵庫県の小野市などが出した、「今年の学校の夏休みゼロ宣言」は今後の長期休みを返上すれば2020年のカリキュラムは消化できると見込んでの宣言であると思われる。これらも2020年度の学習カリキュラムを「年度末までに進めていく」という意思の表れと受け取ることができる。したがって、「今年9月入学(新学期)」という案は事実上消えたと考えるのが自然だろう。

5月に入って新規のコロナ感染者数は減る傾向にあるが、秋以降に再び感染が広がる事態になれば、「家庭学習」と「分散登校」による授業で本当に2020年度のカリキュラムが消化できるかという議論が巻き起こるのは必至である。消化できるかどうかは、後述する2020年度の入学試験との関わりもあり、極めて深刻な問題である。

3)突如としてICT教育が始まる

家庭での学習も授業として取り扱うという文科省の意向に合わせて、各自治体の教育委員会や学校では、動画または双方向型オンライン授業への取り組みを積極的かつ急ピッチに進めている。

デジタルタブレットで宿題をしている小学生
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しかし実際は、「課題のやりとりを電子化(メール)で行う」という程度のことをオンラインと称したり、場合によっては動画だけを配信し、あとは子供たちの主体性に任せたりということがあると保護者たちは嘆いている。

そもそも紙ベースで課題・宿題を出しても、勉強に意欲的な子供を除くほとんどの「普通の子」に学習効果を望むことは難しいだろう。だが今後、家庭学習を正式な学校の学習として認めるためには、ペーパーで課題を出して「やっておいてね」では済まない。そこで期待したいのがICT教育というわけだが、問題は山積である。