20年前の中国には「絵本」という言葉も、市場もなかった。ライターの飯田一史氏は「中国で『絵本』文化を広めた立役者は日本のポプラ社だ。現地に絵本専門店を開くなど、ゼロから読者をつくる努力を重ねたことで、確固たるブランドを築き上げている」という——。
寝室で娘に本を読み聞かせる母親
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絵本の巨大市場を作った仕掛け人

20年前の中国には「絵本」という言葉も、市場もなかった。子どもたちが読んでいたのは図画書、連環画と呼ばれる「イラスト集」で、海外の優れた絵本は中国の対外政策や外資規制などによってほとんど入ってこなかった。

それに風穴を開けたのが、日本の出版社「ポプラ社」だった。2003年に外資企業の小売・卸が解禁されると、ポプラ社は2004年に現地法人「北京蒲蒲蘭文化発展有限公司」(蒲蒲蘭ププラン)を設立。2005年には中国初の絵本専門書店を開き、絵本の普及を進めてきた。

中国唯一の図書データ資料「中国開巻市場調査研究報告」によると、2019年度の中国の図書売り上げは894億元(約1兆3700億円)。なかでも児童書は全体の25%(3425億円)を占め、2017年ごろから出版市場の最大シェアを誇るまでに急拡大した。今や日本の約4倍の規模だ。

中国に「絵本」をいち早くもたらしたポプラ社は、その巨大な絵本市場の開拓者ともいうべき存在だ。もともと存在しなかった絵本が、なぜ中国人に受け入れられたのだろうか。