介護現場は「3密」になりやすい。そのため感染を恐れた事業者側が休業するケースが増え、「介護崩壊」が懸念されている。ケアマネジャーを取材している相沢光一氏は「動きが遅いといわれる厚労省ですが、コロナ禍の『介護崩壊』の危機に関してはいち早く制度変更に動いています。ただし、今後の動向は予断を許しません」という——。
理学療法士と運動をしているシニア女性
写真=iStock.com/SetsukoN
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コロナ禍で厚労省の「体質」に変化の兆しか

お尻が重く、動きも遅い——。それが「お役所」や「お役人」に対するイメージという方も多いかもしれません。埼玉県の社会福祉法人に所属するケアマネジャーのKさんもそうでした。

「私たち介護業の所管省庁である厚生労働省は喫緊の課題があっても、すぐには改善に向けて動いてくれません。業界全体の問題だったとしても『わかりました。介護保険法改正時(3年に1度)に検討しましょう』と言うだけで放置されるのが常でした」

大いにうなずく読者もいるでしょうが、Kさんはこう続けました。

「でもね、最近の厚労省はちょっと違うんですよ。新型コロナ禍対応のため、迅速かつ率先して動くようになってきたんです」

466億円かけた「アベノマスク」は世間で不評だが、介護施設では……

Kさんが評価する厚労省の対応のひとつが「マスクの配布」です。

「私が勤務する法人は老人保健施設を運営しているんですが、そこに4月上旬、布製のマスクが150枚届きました。おそらく全世帯に2枚ずつ配られることになったマスクと同じものです。指摘されているようにサイズが小さく、男性がつけると鼻の部分が出てしまう。ケアに使うには十分とはいえませんが、幸いウチの施設では不織布マスクの在庫がまだあるので職員はそれを使い、配布された布マスクは入所者の方に使ってもらっています」

入所者が1日使った布マスクは回収して洗濯。清潔にしたものを再利用というシステムを作ったといいます。

「それまでは利用者の方も在庫の不織布マスクを使っていただいていたんですが、布マスクが届いたことで不織布マスクの節約になります。その意味ではとても助かっています」

マスクの全世帯配布は世間から大批判を浴びました。一世帯にわずか2枚ということやその配布に466億円もの予算が使われたことに対する衝撃からです。「たった2枚のためにそんな大金を使うなら医療機関や介護施設にまわすべきだ」という声があがりました。マスク不足で悩む医療機関はまだ多いようですし、布マスクは使いものにならないでしょう。ただ、介護施設では役に立っているのです。