20年、工学部を設置したことで、京都先端科学大学は理系のみに力を入れていると思われがちですが、従来からある人文学部や、経済経営学部などの文系学部、看護学科などがある健康医療学部もさらに伸ばしていきます。人文学部には源氏物語の研究で日本の第一人者の女性教授がいますが、彼女から平安時代の人間関係づくりの話を聞いて、実に面白いと感じました。

スマホではわからない知見

歴史や過去の人々が遺した文献からは、現代のビジネスにも役立つ普遍的な人間の営みを学ぶことができます。いまはスマホ1つあれば、フランスの経済史から何からすべて瞬時に調べられます。そういう時代だからこそ、大学では「スマホではわからない知見」を学ぶことが、文理を問わず重要になるのです。

私は「2025年までに世界大学ランキングで関関同立を抜き、2030年までに東大・京大を抜く」と公言しています。先日、学生から「東大や京大を抜いたあとはどうなりますか?」と聞かれたので、「ハーバード、MIT、ケンブリッジを抜くことになるだろう」と答えました。それがいつになるかいまは言えませんが、それぐらい高い目標を目指すということ。

その言葉の背景には、日本の大学が世界の中で凋落を続けている厳しい現実があります。アジアの大学がどんどん成長している一方、日本の大学で世界ランキング100位以内に入っているのは東大と京大のみ、早慶は600位以下です。論文の引用数や学生一人あたりの教員数、国際性や入学後の伸びが指標のランキングで、京都先端科学大学が短期間で日本トップレベルの大学になるのは十分に可能です。

京都先端科学大学では、教育だけでなく研究にも力を注ぎます。経営に乗り出した当初は「ノーベル賞を取る人を育成する大学ではなく、専門分野で即戦力になる人材を育成する」と言っていましたが、考えを変えました。学内に「ナガモリアクチュエータ研究所」という研究機関を設立し、そこではロボティクスや材料科学、ナノ工学などの世界最先端のテクノロジーの研究を行います。ノーベル賞レベルの研究が行われている大学には、必ず優秀な学生、先生たちが集まってくるからです。

京都先端科学大学では、将来的にいまの健康医療学部に加え、医学部の設置を構想しています。それもただの医学部ではなく、高齢者医療に特化した医学部。人生100年時代を迎えようとする現在、どこも病院は老人の姿で溢れかえっています。2~3時間待たされたあげく、診療は3分で終わることに不満や不安を抱えている高齢者はたくさんいるのです。

医学部の設置には、国の認可の高いハードルを越えなければならないが、それだけにやりがいのあるチャレンジ。日本電産はパソコン、スマホ、電気自動車など、常にモーターが必要となる市場の先を読み、他社に先駆けて優れた製品を作ることで飛躍的に成長しました。大学経営もまったく同じ。世界の変化を先読みし、この国の未来に必要とされる人々を育てていくことが大切なのです。

(構成=大越 裕 撮影=的野弘路)
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